出雲市斐川町直江に安産を願う人が訪れる「御井(みい)神社」がある。1300年前に編さんされた古事記に、神社の由来にまつわる物語が書かれている。
大国主命(おおくにぬしのみこと)の最初の妻である八上姫(やかみひめ)が御子(みこ)を授かったが、後に正妃となる須世理姫(すせりびめ)を恐れて、御子を木の俣(また)(分かれ目)にかけて因幡の国に帰ってしまった。御子の名は「木俣(このまたの)神」または「御井の神」と言う。八上姫が産湯に使ったとされる井戸が現在も神社に残っている。
井戸は「生井(いくい)」「福井(さくい)」「綱長井(つながい)」の三つで、豊かな地下水脈に裏打ちされている。宮司の稲田真二さんによると、昭和のある時期まで実際に産湯として使われていたそうだ。
金属製の水の出口を「蛇口」と呼ぶ。辞典に書かれた一説によると、明治になって水道が敷かれた際、栓の部分は日本や中国で「水神」を意味する龍(りゅう)がデザインされ、龍の元は「蛇」ということで「蛇体鉄柱式共用栓」という名前が付いたのが由来。一時は「龍頭」という名もあったようだ。神社の手水舎(ちょうずや)の蛇口は龍の形をしている所が多い。
物語の意味するところは「水ある所に信仰あり」。それは当たり前だ。水なくして人は生きられないのだから。だが、蛇口をひねれば水が出る便利さは罪なもので、恩恵に感謝するどころかその意識を忘れ、断水の時だけ怒ったり、困ったりする。「人は水に始まり、水に終わる」ということがないように感謝と備えが必要だ。(万)













