年末大掃除の際、片付けの障壁になる衣服たち
年末大掃除の際、片付けの障壁になる衣服たち

 年の瀬が迫ると、気になるのが大掃除。毎年12月になると「年末までに不要品を減らそう」と決意はするものの、日々の忙しさから手がつけられず、気付けば大みそか…という人も多いのではないだろうか。物への執着を捨てる「断捨離(だんしゃり)」のトレーナー、田中富士美さん(56)=松江市=に、片付けのこつを教え聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 断捨離は片付けのコンサルタントを務める、やましたひでこさんが、2009年に出版した著書で提唱し、商標登録された。ヨガの「断行」「捨行」「離行」という思想をもとに、不用になった物を自らの意志で片付け、物への執着を断つ取り組み。田中さんは公認のトレーナーとして、山陰両県の公民館などで断捨離の講演をしている。

公認断捨離トレーナーの田中富士美さん

 ▼断捨離ができれば掃除いらず

 田中さんは「断捨離による片付けをすれば、年末どころか普段から大掃除をする必要がなくなる」と、きっぱり。不要な物がなければ家の中が散らかることはなく、掃除は必要最低限で済む。断捨離について理解し、考え方を変えることが重要だという。

 田中さんは三つの行について教えてくれた。断行は文字通り、物が入ってくるのを断つ判断をすること。物を買う時やもらう時、本当に必要かどうかを今一度、立ち止まって考える。セール品やお下がりに「とりあえず買っておこう、もらっておこう」と考えてはいないだろうか。

 捨行はいらない物を捨てること。いざ片付けようと思った時に「もったいない」「いつか使うかも」と思いがち。物と、物への執着を捨て去る。離行は断行と捨行を繰り返し、周囲に物が減ったことで心にゆとりができた状態。田中さんによると、離行の状態になることで冷静になり、人間関係や仕事の流れも良くなるという。

 

 ▼ごみの判断基準は「今使いたいか」

 考え方は理解できるが、長く使った物や高価だった物をひと思いに捨てるのはなかなか難しい。「捨てる」ことに何か判断基準はないのだろうか。

 田中さんは「『今の自分』を意識してほしい」と強調する。もったいない、いつか使うといった思いは過去や未来の自分の考えだとし、長く使った物でも「今の自分に必要でなければそれは不要なもの」とした。

 確かに、昔着た洋服をまだ使える、いつか使うとタンスの奥に押し込んだまま数年がたっている。使えると思ってとっておいた物を、実際に使ったためしはほとんどない。

 「使える物はとっておこう、と思うといつまでも減らない。自分が家に持ち込んだ物は、自分がごみだと認めないと、ごみにならない」と田中さん。自分が今使おうと思わない物はごみだと認め、捨てることで、ゆとりのある生活へとつながるようだ。

「物を片付けて快適な生活を送ることでさまざまな利点がある」と力説する田中さん

 

 ▼時間を決めて1カ所を徹底的に

 大みそかまではもう時間がない。今から断捨離をマスターし、実践するのは無理そう。田中さんによると、初心者にお薦めの片付け方法がある。タイマーで5分間だけと決め、冷蔵庫やタンスの中といった一カ所の物を全部出し、徹底的に「いる」「いらない」「保留」の判断を自分ですることだという。

 田中さんのお薦めはタンスや天窓の上に積まれた、あぶれた物。5分間だけは集中してごみの判別をすると、いくつかごみを捨てることができ、それが達成感になる。ごみを捨てられなくても「今日は全部いる物だと判別できた」と自分を褒めることが重要だという。

 間延びするとやる気が落ちるため、5分を過ぎたら、どれだけ続けたくても終了する。繰り返すうちに、自分の判断で物をごみにすると決めた自信や決断力がついてくるらしい。田中さんは「5分でも続けると時間の使い方、考え方がうまくなる。今から始めればだんだん物が減っていき、来年の今頃は『大掃除しないと』なんて考えなくなる」と話した。

 

 ▼片付け苦手の記者がやってみると

 記者(31)は昔から片付けが苦手で、すぐ部屋に物が散乱する。年末は仕事が立て込み、自室どころか職場の机の上にも資料が山積み。田中さんからこつを教わったので、この機会に断捨離を試みた。

記者が学生だった8年前、引っ越す際、ダンボール箱に詰めてそのままだった衣服

 一番片付けたいのは衣服。大学を卒業して実家に帰る時や、仕事の転勤で引っ越す時に衣服を詰め込んだダンボール箱が実家に山積み状態。制限時間は5分なので、最低2箱をさばくことを目標にし、スマートフォンのタイマーを5分にセットしてダンボール箱を開封した。

ダンボール箱から出した衣服。当時よく着た服が多く、思わず思い出に浸りそうになる

 友人と遊ぶ時に着た、部屋着として長年着た、いつ買ったのか思い出せない…懐かしい思い出に浸りそうになるが、そんな時間はないと頭を振り、次々に仕分ける。洋服として使えそうなものはいくつもあったが、田中さんの「捨てる基準は『今使いたいかどうか』」という言葉を思い出す。学生時代に着た服の中で、30歳を超えた今でも着られる服は少ない。基準があることで、判別は格段にはかどった。

 続けるうちに、思い出に浸ることは少なくなった。洋服を見て頭に浮かぶのは、いるか、いらないかの2択のみ。自然と判別の速度が上がる。田中さんが言った「考え方がうまくなる」とはこういうことか。わずか5分でこれだけ効果があるなら、毎日続ければたまった不要品はたちまち姿を消しそうだ。結局、タイマーが鳴る頃には、用意した衣服の9割をいらないと判別することができた。

 何年も積んであったダンボール箱を2個減らせたというだけで、大きな達成感があった。「5分だけ」という制限時間が、重い腰を上げさせてくれた。続きをやりたくて仕方がないが、ひとまず5分だけという約束。この勢いのまま、年明けに向けて少しずつ仕分けを続けようと思う。

30着あった衣服のうち、残すと判断したのはわずか3着。あらためて、いらない衣服27着を7年も家に置いていたかと思うと身震いがする

 

 「『片付けが苦手』だと思うのは片付け方を教えてもらっていないから。自分を責めず、楽しく片付けをしてほしい」と田中さん。片付けは苦手と思っている人も、5分だけと思って年末の数日だけでも試してみてはいかがだろうか。今、断捨離を始めれば、来年の年末には、大掃除からは解放され、今と異なる部屋になっているかもしれない。