米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設工事が進む名護市の市長選は、移設を推進する岸田政権が支援した現職が、移設反対を訴えて玉城デニー知事が支援した新人候補を破って再選された。

 ただ、現職は基地移設の受け入れを表明しているわけではない。賛成も反対も明言せず「黙認」しながら、政府の交付金を受け取って市政を進めている。再選を市民の移設賛成の意思表示と捉えることはできない。

 名護市への移設計画が浮上して以降、市長選は7回目だ。基地負担と日々の生活との間で悩む選択をいつまで強いるのか。「黙認」の意味は、本土の人々こそが考えなければならない課題だ。

 岸田政権は投票に示された市民の意思を丁寧にくみ取るよう求めたい。沖縄では今年9月に知事も任期満了を迎える。再選を目指す玉城知事は態勢の立て直しを迫られることになろう。

 再選された渡具知武豊市長は4年前の初当選以来、名護市辺野古への基地移設について「国と県の対応の推移を見守る以外にない」と賛否を明確にしていない。その一方で、移設の進捗(しんちょく)状況に応じて市町村に直接交付される米軍再編交付金を活用して、学校給食費や子ども医療費などの無償化を実現してきた。

 過去最低の投票率の中での選挙結果は、市民が悩んだ末に暮らしを優先する選択をしたものと捉えるべきだろう。

 移設に反対した前市長時代には交付金は払われなかった。「アメとムチ」で基地受け入れを迫る政府の手法は許されるのか。これが岸田文雄首相の強調する「国民の信頼と共感を得る、丁寧で寛容な政治」とはとても言えまい。

 市民からは「反対しても移設工事は止まらない」という声も聞こえた。しかし、辺野古の埋め立て海域では軟弱地盤が見つかり、改良工事のための設計変更の申請を玉城知事は不承認にしている。今後、国と県の対立は裁判闘争に発展する可能性が大きい。

 埋め立てが順調に進んだとしても、移設が完成するのは2030年代以降となり、その間、市街地の中心部にある普天間飛行場の危険性は解消されないままだ。

 沖縄では、名護市と同日にあった南城市長選でも玉城知事を支える「オール沖縄」勢力が推した現職が敗北した。昨年10月の衆院選でも、名護市を含む沖縄3区でオール沖縄候補が自民党公認候補に敗れている。

 玉城知事は「辺野古移設に反対する方向性は1ミリもぶれることはない」と強調するが、再選に向けて厳しい情勢は否定できない。

 ただ、その背景に基地負担を沖縄に押し付けながら、経済的に締め付ける政府の措置があることを指摘しなければならない。新型コロナウイルス感染症で観光業などが深刻なダメージを受けている沖縄だが、政府は22年度予算案での沖縄振興予算を大幅に削った。3千億円を下回ったのは12年度以来、10年ぶりになる。

 在日米軍基地の米兵からオミクロン株の感染が市中に広がったとみられる問題でも、日本の検疫を受けずに入国できる措置を認めている日米地位協定の改定を岸田首相は否定している。

 沖縄は今年、本土復帰から50年になる。負担を一方的に押し付ける国と沖縄との関係を真剣に再考すべきだ。