フィギュアスケートの女子選手で難しい4回転ジャンプを跳び、恵まれた才能が注目を集めるロシアのカミラ・ワリエワ選手が、禁止薬物の検査で陽性が確認されたにもかかわらず、スポーツ仲裁裁判所の裁定で、既に終了した北京五輪の団体戦に続き、個人種目への出場が認められた。
ドーピング違反を国ぐるみで進めたことで、国際オリンピック委員会(IOC)の制裁を現在受けているにもかかわらず、ロシアはドーピング規定違反の疑いがある選手を五輪に出場させ、メダル獲得を目指す。
公正な競技の確立につながる規定尊重の姿勢は見られない。ロシアに対する各国の不信はより強まったに違いない。
主に狭心症や心筋梗塞の治療に使われる薬の成分がワリエワ選手の検体から確認されたことを知りながら、ロシア反ドーピング機関は資格停止処分をわずか1日で解除し、今大会での競技続行を容認した。
この手続きは不適切で、容認できないとして、IOCと世界反ドーピング機関、国際スケート連盟の3者は手続き無効を求め、仲裁裁判所に提訴した。
裁定は、ワリエワ選手は16歳未満の「要保護者」であり、世界反ドーピング機関の現行規定は要保護者に対して、暫定的な資格停止処分を科すことには言及していないと指摘し、結果的に出場を容認した。
ワリエワ選手が競技力の向上を目的に、自身の判断でその薬を使ったと考えるのは難しい。指導者、あるいはチーム関係者が関与した疑いは拭えないだろう。
注目しなければならないのは、裁定はワリエワ選手の出場を差し止めるには十分な規定となっていないと指摘する一方、ドーピング違反があったかどうかの判断はしていない点だ。
IOCはこの裁定を受けて、強い姿勢を見せた。ワリエワ選手のドーピング違反が今後確定する可能性があるとの予測の下に、ロシアが1位、日本は3位となった団体戦のメダル授与式を北京五輪開催中に催すのは適当ではないとして、中止を決めた。
さらに、ワリエワ選手が女子で3位以内に入った場合には、競技会場での花束の贈呈式も、メダル授与式も大会中は実施しないことを決定した。
ドーピング違反があったことを証明し、国際スケート連盟とともに、違反選手を除いた順位を確定させ、その後に各上位入賞選手にメダルを授与するとの意思表明なのだろう。
団体で競い合った各国の選手は既に、公正な試合ではなかったようだと思っているに違いない。IOCと世界反ドーピング機関には事実の確認に全力で取り組んでほしい。
ロシアは今回の裁定で「勝者」と認定されたわけではない。世界反ドーピング機関の現在の規定は、要保護者に対して五輪期間中の出場を差し止める根拠としては不十分かもしれないが、五輪後に選手活動資格を一定の期間、停止するには十分な内容だと判断される可能性は残っている。
メダル授与式の大会中の実施取りやめ発表には、まさにこの可能性を追求するIOCの意気込みがうかがえる。
各競技会場で、競い合った選手と健闘をたたえ合うシーンが見られる。どこまでも公正で公平な舞台としての五輪を守り抜いてほしい。