金融機関に強く求められるのが、融資の公正さであることは論をまたない。ところが政府全額出資の日本政策金融公庫で、政治家の口利き案件を特別扱いしていた事例が表面化した。
口利きで貸金業法違反の罪に問われた遠山清彦元公明党衆院議員の東京地裁での初公判で検察側が具体的に指摘し、証拠採用された公庫職員らの供述調書などから浮き彫りになった。
口利きがある融資希望者は、一般希望者が殺到し手続きの遅延が深刻化する状況を尻目にスピーディーに融資が受けられ、甘い審査を疑わせる証言まであった。新型コロナウイルス禍に苦しむ事業者を支える特別融資である。断じて許されない。
日本公庫は第三者委員会を設けて事実関係を徹底的に調査、公表すべきだ。それが政治家の介入抑止にもつながるはずだ。所管の財務省は調査を指示し、厳しく監督してもらいたい。
遠山元議員は財務副大臣だった2020年3月から議員辞職後の21年6月にかけて、事業者らの特別融資などの希望を111回公庫に口利きしたとされ、初公判で起訴内容を全面的に認めた。
検察側冒頭陳述によると、公庫では国会議員や秘書の融資仲介には特別に対応。通常は支店が申し込みを受け付け、担当者が面談や審査などの対応をするのに、議員らの案件は本店を窓口とし、管轄支店の幹部を指名して迅速、丁寧に対応させていた。遠山元議員の案件もそうだった。
ある支店幹部の供述調書によると、新型コロナ特別融資の希望は多く、順番待ち用に30~40脚のいすを並べても足りず、2時間待ちのこともあったが、仲介案件は円滑、迅速に処理したという。
共犯として起訴されている会社役員は「副大臣の影響力があると認識していた。融資決定の判断が早く、飛行機に乗る多数の客が並ぶ中、ファーストクラスの客が先に乗り込むようなものだった」と供述している。
これだけでも、公平性を著しく欠くが、運転資金に窮し、銀行に相談しても打つ手がなかったという洋菓子店関係者は、遠山元議員側の口利きで「公庫の課長に電話すると既に話が通っており、1週間後には4千万円の融資が受けられた。さらに2千万円の追加融資も受けた」と述べている。
審査の適正性にも疑念が浮かぶ。遠山元議員が関与した融資総額は37億円を上回る。公庫は全ての融資について、経緯や審査の詳細を洗い直すべきだ。
また公庫のシステム的な特別対応は、以前から政治家らの口利きがあったことを推認させる。実際、別の前公明党衆院議員の元政策秘書も独自の口利きで起訴されている。あらゆる仲介を調査してもらいたい。
事件を受けて公明党は1月、遠山元議員を除名し、再発防止策の中間報告を取りまとめた。所属議員らが金融機関を紹介した対価として資金を受け取らないよう徹底すると強調しているが、果たしてそれで十分なのか。
遠山元議員が総額1千万円もの謝礼を受け取っていたのは論外だが、金銭授受にかかわらず、政治家の安易な口利きは、適正手続きを損なう恐れがあるのではないか。
公明党は公判内容を踏まえて、ガイドラインを作成するとしている。国民が納得できるものを示さなければならない。






 
  






