中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の再稼働に向けて、大きな流れができたと言っていいだろう。

 立地自治体の松江市の上定昭仁市長が15日の市議会全員協議会で再稼働の同意を表明した。合わせて市議会も、再稼働の是非を問う住民投票条例案を賛成少数で否決した。

 原発30キロ圏内には島根、鳥取両県の6市が位置するものの、現行の安全協定では、再稼働の可否を判断できる「事前了解」(同意)の権限を持つのは、立地自治体の島根県と松江市のみ。島根県の丸山達也知事は、周辺自治体と鳥取県の意見が出そろった後に判断する考えだが、原発のお膝元である松江市が早々に同意したことで、再稼働の流れが一気に加速しそうだ。

 上定市長は同意の理由に、電力の安定供給や地域経済への影響などを挙げた。

 地球温暖化抑制の切り札に位置付けられる再生可能エネルギーは、出力が自然条件に大きく左右される課題がある。火力発電は温暖化の要因となる二酸化炭素(CO2)を多く排出する上、燃料価格も世界的な需要動向で大きく変動する。そのため、発電時にCO2を排出せず、コストも安いとされる原発を利用するという考えは確かに一理ある。地元経済団体も製造業を中心に安定した電力供給が不可欠として、再稼働を容認するよう関係自治体などに求めている。

 とはいえ、再稼働を巡っては別の道理もあるはずだ。島根原発の安全性に加え、原発30キロ圏内で暮らす両県の約46万人を対象とした広域避難計画の実効性をどうやって担保するのか。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場問題をどう解決するのか。

 再稼働に直結する課題や疑問は尽きないだけに、松江に加えて、米子、境港の各市議会に再稼働の是非を問う住民投票条例案が出されたのは当然だろう。

 しかし、上定市長は「再稼働のように複合的な課題は俯瞰(ふかん)的に議論する必要がある。選挙で負託を受けた市長と市議が、責任をもって判断することがふさわしい」と住民投票に反対の姿勢を示していた。ならば、疑問を抱く住民の理解が得られるような丁寧な説明が欠かせない。

 もう一つ解せないのが、再稼働を同意するまでの異例の早さだ。島根原発2号機が原子力規制委員会の審査に合格したのが昨年9月15日で、それからわずか5カ月での同意。既に地元同意の手続きが終わった東北電力女川原発2号機が立地する宮城県石巻市の10カ月をしのぐ。

 女川原発の場合、東日本大震災の大津波で多くの人命が犠牲となり、経済活性化に原発再稼働が不可欠だったという事情がある。現在は新型コロナウイルス禍で経済活動が疲弊しているものの、果たして松江市に急ぐほどの切迫感があるだろうか。

 ましてや、島根原発は規制委による指摘で防波壁の新たな工事が必要になり、中電は再稼働の前提となる安全対策工事の完了時期を21年度内から23年2月に延期。再稼働は全工事が完了する「23年度以降」に先延ばしされた。焦って判断する理由が見つからない。

 昨秋から「参院選までに決着をつけたい」という声が、電力関係者ら推進派の一部から聞こえていた。再稼働の是非を今夏の参院選の争点にしたくないという理由だが、そうであれば、周辺住民の意志を置き去りにしていると言わざるを得ない。