背中に現れた帯状疱疹(山﨑修教授提供)
背中に現れた帯状疱疹(山﨑修教授提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続き、通常は加齢による免疫力の低下によって発症する帯状疱疹(ほうしん)の若年化が懸念されている。旅行や会食を自粛しなければならないなどでストレスがたまり、免疫力に影響するとみられる。島根大医学部皮膚科の山﨑修教授(54)に、帯状疱疹の特徴や対処方法を聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 ▼若年患者、水面下で増加の可能性?

 山﨑教授によると帯状疱疹は、体の左右どちらか一方の胸や腕に、赤い斑点や水ぶくれが帯状に現れる病気。現れた部位にはピリピリとした痛みを伴うほか、重症化した場合は皮膚がただれたり、神経が炎症によって損傷することで、後遺症として部位の痛みが数カ月続いたりするという。帯状疱疹は3~4人に1人の確率で発症し、通常はそのほとんどが50~70歳代だという。

帯状疱疹の症状や対処方法に詳しい山﨑修教授

 島根大医学部付属病院の帯状疱疹の患者数は2017~2021年で毎年50人前後。患者の平均年齢は60~70歳で、統計的にはコロナ流行後に特に若年化が目立つ状態ではないという。

 ただ、山﨑教授は大学病院の外来診療は平日の午前中だけで、必然的に高齢者の患者が多くなる点を指摘する。帯状疱疹は重症化しない限り症状がそれほど重くない上、コロナ禍による受診控えも重なり、実際は幅広い年齢で、水面下で増加している可能性があるとみている。

肩に現れた帯状疱疹。初期は赤い斑点が少ないが、症状が進行すると水ぶくれになったり、ただれたりする(山﨑修教授提供)

 山﨑教授の知るクリニックに帯状疱疹について尋ねた際、最近、若い人の受診が増えたと話す医師がいたという。山﨑教授は「私自身も30代で帯状疱疹を発症した。コロナ禍のストレスが引き金となり、これまでより若い人の発症が増えることは十分考えられる」と分析する。

 また、海外ではコロナのワクチンを接種した人の10万人に16人の割合で、帯状疱疹が出やすくなったという報告があるという。山﨑教授はワクチンの作用で免疫力に変化が生じ、帯状疱疹のウイルスが活性化したと推察するが「まだ詳細な研究データがなく、断言はできない」とする。気になる報告だ。

 コロナ禍の生活で発症する可能性があると聞くと、症状や対処方法について知っておきたくなる。

 

 ▼子どもの頃の「水ぼうそう」原因

 帯状疱疹の原因はほとんどの人が子どもの頃にかかるとされる、水ぼうそうを引き起こす「水痘・帯状疱疹ウイルス」。ウイルスは子どもの頃に一度発症した後、背骨などにある神経の節目に潜伏し、加齢やストレスによって免疫力が低下すると、再び活性化する。

背中に帯のように現れた帯状疱疹。ほとんどの場合、体の片側に出現するのが特徴だ(山﨑修教授提供)

 ウイルスは神経に沿って移動して発症するため、症状が帯状に現れる。体のどの部位にも症状が出る可能性はあるが、胸から背中にかけて現れることが最も多く、目の周辺など顔に出ることもあるという。

 合併症として、発熱や頭痛のほか、顔に帯状疱疹ができた場合は、目の角膜炎や結膜炎を引き起こすことも。まれに難聴や顔面神経まひといった、重い症状も併発するという。

広範囲に赤くただれだした帯状疱疹。皮膚の炎症による痛みに加え、神経の損傷による痛みが年単位で続く場合があるという(山﨑修教授提供)

 山﨑教授によると、近年はほとんどの人が子どもの頃に、水ぼうそうの予防接種を受ける。ただ、接種した子どものうち10~20%程度が、自覚症状がないほどごく軽症の水ぼうそうを発症する場合があると言い、その際もウイルスが潜伏して、帯状疱疹を発症する可能性がある。子どもの頃に予防接種をした人でも、帯状疱疹の予防方法や対処法について知っておくに越したことはない。

 

 ▼早期治療が最も有効

 帯状疱疹を予防することはできるのか。

 山﨑教授は「50歳以上の人には任意で、帯状疱疹のワクチン接種が受けられる」と説明する。ワクチンは2種類あり、ともに医療保険が適用されない自費診療。皮下注射する生ワクチン(8千円程度)と、筋肉注射を2カ月間隔で2回するサブユニットワクチン(1回2万円程度)の2種類が存在し、サブユニットワクチンの方が予防効果は高い。接種によって免疫力を上げることで、帯状疱疹の発症を高い確率で防ぐことができ、もし発症しても軽症で済むことや、後遺症の神経痛の予防につながることが分かっているという。

 ただ、50歳未満にはワクチン接種が適用されないため、山﨑教授は「50歳未満はストレスをためないよう、普段から規則正しい生活を心がけるのが有効だ」と助言する。

帯状疱疹に対する早期治療の重要性と、免疫力を下げないための規則正しい生活の徹底について説く山﨑修教授

 対処方法として山﨑教授が最も重視するのは、症状が出たらとにかく早く医療機関で受診すること。ウイルスの増殖を抑える内服薬を飲めば、1週間ほどで治るという。放置して重症化した場合は、入院した上での点滴治療になり、神経痛を併発した場合はさらに治療期間が長引くという。

 山﨑教授は「治療が早ければ早いほど、治るのも早い。体の片方に痛みのある発疹が出たら、早期に医療機関を受診してほしい。帯状疱疹にはちゃんとした治療薬があるので、必要以上に恐れ過ぎず、正しく対処してほしい」と冷静に判断するよう呼びかけた。

 

 新型コロナウイルスに注意を奪われてしまうが、これまで特に流行していなかった病気が目立ち始めている。それぞれの病気は、適切な体調管理をすれば防げる。コロナ禍だからこそ、食事や睡眠といった規則正しい生活を送るという、当たり前のことをしっかり意識することが、自分のカラダを守ることにつながる。