今回の参院選は後に振り返ると、この国のかたちを変える岐路となった選挙と位置付けられるかもしれない。

 「専守防衛」を掲げた、戦後の抑制的な安全保障政策の大転換につながりかねない防衛力の抜本的な強化や、国の最高法規である憲法改正が主要な争点の一つとなっているからだ。昨年の衆院選に続いて、リベラル勢力が退潮すれば、こうした論議が一気に加速する可能性は高い。

 「憲法」が各党の公約で大きなウエートを占めたことは、最近の国政選挙ではなかった。それは2年半にわたる新型コロナウイルスとの闘いに加え、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮が繰り返すミサイル発射など、世界の安全保障環境の変化と無縁ではないだろう。

 自民党は、憲法改正の早期実現を打ち出し、9条への自衛隊明記や緊急事態条項の新設、参院選の合区解消、教育の充実という条文イメージ4項目を公約に明記。岸田文雄首相は「極めて現代的な課題だ」と強調する。

 統治機構改革を改憲の前面に据えていた日本維新の会は、自衛隊を規定する9条改正や緊急事態条項の創設を追加した。国民民主党も緊急事態で選挙が不可能になった場合に備え、国会議員任期の特例延長を設けるよう主張。共通の土俵は広がったようにも映る。

 ただ、与党の公明党は戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認を定めた9条1、2項の堅持を訴え、9条改正の賛否を避け「検討を進める」立場だ。緊急事態条項に関しても、必ずしも積極的とは言えず、デジタル社会における人権、地球環境保全の責務などを検討課題に並べる。

 一方、野党第1党の立憲民主党は、自民案について「国民の権利保障や立憲主義に逆行する」(泉健太代表)と反発。「論憲」の立場から、首相の衆院解散権制約や臨時国会の召集期限の設定を挙げる。共産、社民両党は改憲自体に反対だ。

 自民、公明、維新、国民民主のいわゆる「改憲勢力」が発議に必要な3分の2以上の議席を確保した場合でも、各党が関心を寄せる項目には濃淡があり、「改憲」でひとくくりにできないのが実態ではないか。

 昨年衆院選の立憲民主の大敗、維新の躍進で、停滞していた衆院憲法審査会の論議が定例化した。自民の茂木敏充幹事長は改憲発議に向け「1年とか2年以内にはやろうということも含めて、スケジュール感を共有することが重要だ」と語っており、コロナ禍やウクライナ危機を〝追い風〟と捉えているのは間違いない。参院選に勝利すれば「民意」を声高に叫び、具体的な改憲項目の絞り込みへ攻勢を強める展開が予想される。

 しかし、有権者は改憲を政治の優先課題と捉えているだろうか。憲法は国のかたちを表す。情緒的に流されるのではなく、現行の憲法が何をもたらし、足らざるものがあるならば他の法制で対応できないのか、腰を据えて検証しながら幅広い合意形成をしていくのが言論の府の姿だ。改憲ありき、日程ありきでは有権者の理解は進まない。

 衆院解散・総選挙がなければ、今後3年間国政選挙で私たちが意思表示をする機会はない。それだけに、今回参院選が持つこうした重い意味をかみしめ、各党それぞれの主張に目を凝らし、1票を投じたい。