フードコート内に開設した松江市立中央図書館のサービスステーション=松江市東朝日町、イオン松江ショッピングセンター
フードコート内に開設した松江市立中央図書館のサービスステーション=松江市東朝日町、イオン松江ショッピングセンター

 松江市内のショッピングセンターのフードコートの一角に突如「図書館」が現れた。飲食厳禁の印象が強い図書館がなぜ飲食コーナーに開店しているのか調べた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 ▼牛丼屋の隣に図書館

 図書館があるのはイオン松江ショッピングセンター(松江市東朝日町)3階のフードコート内。ハンバーガーやうどんといった店の看板が立ち並ぶ中、牛丼の「すき家」の隣に「松江市立図書館イオン松江サービスステーション」と書かれた看板が掲げられている。

 看板は白地に黒文字で書かれたシンプルなもの。コーナー内部も白を基調に「予約本の貸出できます」「窓口で予約受付中」といった必要最低限の貼り紙以外はない。飲食店の派手な看板が並ぶ中では、異彩を放っている。

とても質素なたたずまいのサービスステーション。この写真だけ見るととてもフードコートの一角には見えない

 

 ▼工事による休館に伴い開設

 松江市立中央図書館(松江市西津田6丁目)の小林久美子館長は「今まで図書館を利用する機会がなかった人が、図書館に親しむきっかけにしたかった」と開設の狙いを話した。

 松江市内に3館ある市立図書館は、蔵書数計34万7千冊を誇る。中央図書館は現在、図書館が入る松江市総合文化センターの改修工事により、4月から休館中。貸し出し機能の継続のため、イオン松江と市民活動センター(松江市白潟本町)の2カ所に6月、サービスステーションを開設した。

市民活動センター内に開設したサービスステーション。こちらには児童書が置かれ、手に取って読むことができる

 サービスステーションではホームページや電話、窓口で貸し出し予約した本を受け取ることができる。予約に応じて倉庫や他の市立図書館にある本を運搬するため、どの図書館にある本でも受け取れる。市民活動センターのサービスステーションには実際に手に取れるよう、児童向けの本約1万冊が常備されている。

 イオン松江に開設できたのはテナントに元々入っていた店が、図書館休館のタイミングでたまたま空いたからだという。小林館長は「奇をてらったわけではない。物件を探していた時に偶然見つけ、老若男女多くの人が通る所だったのでぴったりだと思った」と振り返った。

取材中、近場の生徒がサービスステーションを利用する場面も。近くを通る人々も興味深そうに眺めており、開設してからの利用率は悪くないという

 フードコートは映画コーナーの目の前でもあり、学生から家族連れまで多くの人が通る。通りがかる客の中には「図書館を利用したことがないので、貸し出しカードを作りたいです」と申し出る人もおり、新規利用者の開拓につながっているという。常連からも「買い物のついでに利用できて便利」と好評で、7月にイオン松江のサービスステーションで本を借りた人数は1600人、カードの作成や問い合わせを含め訪れた人数は2500人に上るという。

 

 ▼ホームページや電話で予約、本は受け取りに行くだけ

 せっかくなので、安来市在住で松江市立図書館を一度も利用したことがない記者(32)がサービスステーションの使い方を教わった。

 サービスステーションを利用するには本の貸し出しの際に使う利用者カードが必要。身分証明書を持ち、サービスステーションの窓口か、市立島根図書館、東出雲図書館に行けば作ってもらえる。記者が免許証を見せて登録用紙に名前や住所を記入すると、3分ほどでカードができた。松江市立図書館では市外や県外の人でもカードを作れて利用できる。

記者が初めて作った市立図書館の利用者カード。市出身の漫画家、園山俊二さんのイラストが描かれている

 カードがあれば、市立図書館のホームページか電話、窓口で予約できる。ホームページで借りたい本のタイトルを検索して、当該の本を予約カートに入れて「予約する」ボタンを押し、受取館と連絡方法(メール、電話)を選択する。電話の場合は名前と7桁のカード番号を伝え、借りたい本のタイトルを言えば予約できる。

 図書館が予約の通知を受けて本を運搬し、準備ができ次第、連絡が来る。早ければ予約の翌営業日には借りられるという。手続きを全てネットで終えられ、本を受け取るだけで済むのはかなり便利だ。

 図書館やサービスステーションではジャンルや対象年齢別に司書がお薦めの5冊を選んで1セットにした「貸し出しセット」も置かれている。ホラーやSFといったジャンル別に40セット、0歳や1、2歳といった年齢別に50セットがあり、予約なしでも借りられる。記者は怖い話が好きなので、ホラーセット5冊を借りてみた。盆休みを活用して読破しようと思う。

 

 フードコート内にある一風変わった図書館は、市民の利便性に着目して開設した拠点だった。小林館長は「買い物や飲食のついでに気軽に立ち寄ってもらい、利用者カードだけでも作ってみてほしい」と利用を呼びかけた。

 

 

 イオン松江サービスステーションの営業時間は午前10時~午後7時で、市民活動センターサービスステーションは午前10時~午後6時。休館日はともに毎週水曜と毎月最終金曜。一度に予約できるのは10冊までで、貸し出し期間は2週間。貸し出し料金は無料。