東京五輪・パラリンピックの開幕まで3カ月を切り、各地で聖火リレーが淡々と進む。だが、このスポーツの祭典への機運が一向に高まらない。アスリートの躍動には声援を送りたい、でも新型コロナウイルス対応は本当に大丈夫なのか…。多くの市民が抱くこんな感情がメディアの世論調査の数字に表れている。

 組織委員会会長の辞任をはじめ、トラブルの連鎖でイメージが大きく傷ついた東京五輪。加えて変異ウイルスが猛威を振るい、3回目の緊急事態宣言の発令に追い込まれた現状に、菅義偉首相が「人類が新型コロナに打ち勝った証し」と意気込んでも、新規感染者が連日5千人超という現実を目の当たりにすれば、市民の不安は膨らむばかりだ。

 拍車を掛けたのが、政府、東京都、組織委の相互の連携・協力の欠落である。菅首相は宣言発令時の記者会見で、コロナ感染状況と開催可否の判断基準を問われ、権限を持つ国際オリンピック委員会(IOC)が既に開催を決めている、と答えるだけで、具体的な言及を避けた。

 丸川珠代五輪相は「主催者としての責任をどう果たすのか、非常に戸惑う」と述べ、医療提供体制を提示しない都を責め、小池百合子知事は「既に実務的に詰めている」と不快感を示す。浮かび上がるのは〝当事者意識〟の希薄さ。市民の命や健康より、五輪を優先させるのか、と不信感が芽生えても仕方あるまい。

 最大のハードルは医療体制だ。感染力の強い変異株が第4波の主流となり、大阪府では医療が崩壊、東京も決して余裕があるわけではない。さらに、五輪期間は、他国に比べて圧倒的に遅れている国内でワクチンの「1億人接種」がまっただ中となる。

 コロナ感染症以外の疾患や熱中症など夏場特有の対応も必要で、五輪のために特別にスタッフや病床などを割くことが果たして可能なのか、通常の医療がおろそかにならないのか、市民の危惧は尽きないのだ。

 五輪の参加選手は約1万1千人、パラリンピックが約4千人で、チーム役員らを加えると約3万人に上る。組織委は大会の医療従事者を、1日当たり最大で医師約300人、看護師約400人と想定、延べ1万人の確保を計画し、日本看護協会に500人の看護師派遣を依頼した。

 政府は、来日する選手と関係者に、出国前96時間以内に2回の検査を求め、選手には入国後に原則毎日検査を義務付ける。関係者も移動手段に公共交通機関を認めないなど、厳格な水際対策、検査と隔離の措置を取るほか、組織委は「無観客も覚悟」(橋本聖子会長)しているという。最終的な観客数の規模が定まらないと、編成も決められないのかもしれないが、ワクチン接種の人員の確保にすら四苦八苦する現在の医療逼迫(ひっぱく)を見れば、五輪のための体制が、市民の理解を得るのはなかなか難しいだろう。

 残念ながら、海外の観客受け入れを断念、五輪を通じた国際交流という意義は失われた。深刻なコロナ禍に直面している以上、判断基準を明確に示し、開催を決断するならば、東京のみならず全国の市民に「安全・安心」を提供できる確証が大前提となる。それを説得力を持って説明することが、五輪への支持を取り戻す第一歩だ。