パンデミックに見舞われて3年。私たちは停滞した空気に閉じ込められる一方、次々に「アップデート」される価値観に―つまりは自動更新されるような社会の規範のあり方にどこか依存してきたようにも思える。

▽「私」を客体化

 そうした無責任な態度が肥大化した果てにあるものを、小説の形で見事に示したのが村田沙耶香の「おろか」(「新潮」4月号)だろう。物語は不穏な年賀状...