統一教会2世の女性の元には、SNSで宗教2世からの相談が日々届く(画像の一部を加工しています)
統一教会2世の女性の元には、SNSで宗教2世からの相談が日々届く(画像の一部を加工しています)

 安倍晋三元首相が選挙演説中に銃撃され死去した事件から、8日で1年を迎える。事件以降、今も続くのは、安倍氏とも近いとされた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題だ。信者の教団への多額献金や家庭崩壊がクローズアップされ、文化庁が解散命令請求を視野に調査を進めるなど、大きな変化があった。「宗教2世」として声を上げ、この1年を奔走した島根県在住の30代女性は「苦しみは私たちの代で終わりに」と願う。  

 「すまなかった」。4月中旬、母親の葬儀以来数年ぶりに再会した父親は土下座し、謝罪の言葉を口にした。教団信者の両親の元で育った幼少期に教義を強制され、「サタンの考えだ」と頬をぶたれる虐待や、ネグレクト(育児放棄)は日常茶飯事だった。

 父の住まいは県内の古びたアパート。テーブルや椅子、バスタオルに至るまで日用品は、女性が子どもの頃と何ら変わらない。預貯金を含めて金銭をほとんど献金につぎ込み、月2万円程度の年金受給しかない父親の生活は、信者が求める「清貧」とはかけ離れ、あまりに困窮を極めていた。

 ▽衰えきった父親の姿

 大病を患い働けなくなった父が身をちぢませながら語ったのは、宗教1世として50年にわたり生きることになった入信のきっかけだった。東日本出身で家は貧しく、家庭内暴力が横行。「自分は絶対に幸せにならないといけない」。そう思い、実家を出て働き始めた20代で勧誘を受け、教団が説く「真の家庭」思想にのめり込んだ。

 教団職員として信仰を深めれば深めるほど、家族は離れていき、やがて崩壊。衰えきった父親の姿に女性は「教団に身ぐるみを剥がされ、ここまで哀れになるのか」とやるせない気持ちが湧いた。一方で娘に許しを請うことで「肩の荷を下ろして楽になりたいだけだ」とも感じた。

 ▽周囲に過去を告白

 安倍元首相の事件後、各所で2世が教団の問題点を指摘する声を上げた。文化庁が質問権を既に6回行使し、解散命令請求の可否判断に向けて証拠を積み上げている。この現状は「この1年間の活動があったからこそ」だ。

 事件後、女性自身の境遇や心境も変わった。小学校からの幼なじみ、ママ友、職場の先輩に、2世として苦しんだ過去を告げた。「気付いてあげられなくてごめんね」。返ってくるのは優しい言葉ばかり。ニュースを通じて教団の存在が多くの人に周知され、宗教問題について語る下地が当事者以外にもできあがってきた手応えがある。

 悩んできた自らの経験を踏まえ、2世を支援する団体のボランティア活動に携わり、交流サイト(SNS)を通じて全国の人たちと向き合う。届くメッセージは1日1件程度だが、スマートフォンの画面をいくらスクロールしても読み終えられないほど、長文がつづられる。抱える苦悩の大きさを受け止め、一つ一つ丁寧に返信を繰り返す。

 「事件前、こんなにつらいのは自分一人だとずっと思っていた。でも、こんなにも苦しんでいる人がいる。宗教2世問題は私たちの代で終わらせる」。それが今、2世同士の合言葉だという。

 (政経部・白築昂)