総務省は、通信放送事業者から法令違反の接待を受けていたとして、職員32人を処分した。同省の第三者委員会は、衛星放送を展開する東北新社の外資規制違反について、接待の影響は確認できなかったとしつつ、違反を黙認したことは「行政をゆがめた」と批判した。違法な接待は2月の発表分と合わせ100件を超え、通信放送行政の「接待漬け」の実態が改めて裏付けられた。

 総務省が今回、通信放送担当の職員ら約170人を調査したところ、合法的なものも含め計約1500件の会食が申告され、約450件は相手が通信放送事業者だった。このうち、職員が費用の全部か一部を支払わなかったケースなどが、処分の対象になった。

 また第三者委は、総務省の担当課長が東北新社の外資規制違反を認識しながら、BSの新チャンネル「ザ・シネマ4K」の事業認定を取り消さず、同社から子会社に事業を移して違反を解消することを黙認した、と判断した。

 この間、担当課長らは同社幹部による接待を受けていた。ただ、担当課長らは「東北新社から外資規制違反について聞いたことはない」と主張。第三者委は、4K放送推進のために認定取り消しをちゅうちょした可能性を指摘し、会食が行政をゆがめたとまでは認められない、と結論付けた。

 東北新社による接待の多くには、菅義偉首相の長男で、菅氏の総務相時代に秘書官を務めていた同社部長が参加していた。菅氏の威光を背に同社が総務省に働き掛けた疑いが持たれていたが、武田良太総務相は「一個人の影響力が行政に発揮されたという事実は確認されていない」と述べた。

 しかし法令違反の接待の件数は、NTTグループと共に東北新社が突出している。事業者が何の見返りも期待せずに多額の経費をかけて接待するなど常識的にあり得ない。官僚も下心を知りながら応じていたはずだ。

 度重なる接待や菅氏の長男の存在が、総務省の対応に本当に影響しなかったのか。真相が明らかになったとは言えない。第三者委は検事出身の弁護士らで構成しているものの、任意調査の限界を露呈した形だ。

 国家公務員倫理法などは、公務員は「国民全体の奉仕者」であり、一部に対してのみ有利な取り扱いをしてはならず、利害関係者から接待を受けるなど疑惑や不信を招くような行為をしてはならない、と明記。割り勘の会食でも利害関係者が同席し、費用が1万円を超えるときは事前に届け出るよう義務付けている。李下(りか)に冠を正さず、である。

 武田総務相は再発防止策として、倫理研修の徹底や会食の届け出の拡大などを指示した。とはいえ、通り一遍の印象で、十分とは思えない。

 役所が所管業界の実情を把握することは行政上不可欠で、酒席での情報交換は必要悪とされてきた面もある。だが第三者委では、会食の積み重ねによって総務省職員と事業者がなれ合い、非公式な面会や電話で重要なやりとりをすることが当たり前になる危険を指摘する声も上がったという。

 コロナウイルスの感染拡大によって、官民を問わず会食は激減した。この「新しい生活様式」を感染収束後も維持しなければならない。接待漬けから、かじを切る時だ。