新型コロナウイルスワクチンの発展途上国への供与について、日本などが共催してオンライン方式で開いた首脳級会合(サミット)で、拠出額の追加表明が相次ぎ、途上国の人口の30%に接種する18億回分の確保を目指す国際枠組み「COVAX(コバックス)」の今年の目標が、資金面では達成された。
ワクチン接種が先進国の多くで進み、出遅れた日本でも本格化してきた。だが途上国で感染が続く限り、危険な変異株が現れる脅威は消えず、先進国も安全にならない。国際社会は今こそ結束して全世界で公平な接種を加速するべきだ。
会合は日本政府とワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」が共催し、ハリス米副大統領ら約40カ国の首脳・閣僚級、国連機関や医薬品メーカーのトップらが参加。菅義偉首相は8億ドル(約880億円)を追加拠出し供与額を計10億ドルにすると表明。各国の総額はワクチンを共同購入・分配するCOVAXの今年の目標83億ドルを上回った。
COVAXはトランプ前米政権の協力が得られず資金不足に苦しんだが、バイデン政権の米国は最大の資金拠出国となって一変。今回の資金目標達成は大きな前進と言える。中国とロシアは自国産ワクチンの供給を「外交カード」とする途上国との個別交渉を優先する姿勢が目立つが、国際枠組みで一層の役割を果たすよう求めたい。
世界の接種回数は累計20億回を超えたが、国による偏りが著しい。会合で国連のグテレス事務総長は「ワクチン接種の75%以上は10カ国が占める。不公平なだけでなく破滅的だ」と嘆き、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「低所得国の接種は世界の0・4%にすぎない」として現状は倫理的にも、医学の見地でも、経済回復の観点からも「受け入れられない」と改善を訴えた。
「全ての人が安全になるまでは、誰も安全でない」。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長が会合で強調した言葉に、先進国と途上国のギャップの解消が全人類にとって必要な理由が集約されている。
人口が多い途上国で感染が長引くほど、感染力が強い変異株やワクチンの効果が弱くなる変異株が出現するリスクが大きくなるからだ。最悪の場合、世界経済回復の希望も打ち砕かれかねない。
インドで3月から変異株が猛威を振るい、リスクが現実になった。インドでは昨年9月をピークに感染者が減り、今年1月にワクチン接種を開始。政府は「コロナを封じ込めた」と自信を示していたが、誤算だった。COVAXは、インドがライセンス生産する英アストラゼネカのワクチンに大きく依存するが、インドが輸出を制限したため調達に支障が出ている。
会合で「高所得国は余剰のワクチンを抱えており、思い切って10億回分以上供与するべきだ」と提案したのは、米マイクロソフト創業者で感染症対策に取り組むビル・ゲイツ氏だ。先進国は実現に向け努力してほしい。
中長期的にライセンス供与や技術移転などによって途上国に生産拠点をつくることも避けて通れない。重症者用の酸素やステロイド系抗炎症薬「デキサメタゾン」も不足する国が相次ぐ。国際社会は知恵を絞って地球規模の生産・供給体制を構築しなければならない。