第1回練習会で生徒の動きを見守る久保田浩司さん(中央)=3月、東京都江東区
第1回練習会で生徒の動きを見守る久保田浩司さん(中央)=3月、東京都江東区

 知的障害のある高校球児を甲子園につながる地方大会に出場させる―。東京都立青鳥特別支援学校教諭の久保田浩司さん(55)は30年以上生徒と接してきた経験を生かし、今春「甲子園夢プロジェクト」を始動させた。「誰もが夢を追えるスタートになれば」と語る。

 3月27日、東京都内で第1回練習会が行われ、各地から11人が参加。軟式で腕を磨いている生徒だけでなく、競技未経験者も白球やバットを手に気持ち良さそうに汗を流した。

 愛知から参加した林龍之介さんは「いつか野球をやりたいと思ってきた。教えてもらったことを帰っても続けたい」と目を輝かせた。父紀成さん(50)は「障害があることで普通に野球をやることは縁遠いと思っていた。この機会に感謝しているし、誰もが好きなことをできる世の中になってほしい」と話した。元プロ野球ロッテ投手の荻野忠寛さん(39)も指導者の一人だ。

 訪問やオンラインも取り入れ、無料で定期的に指導。安全にプレーできる技量が備わった段階で各地の高野連加盟を所属校に要望する。2016年には鹿児島で、特別支援学校が連合チームとして夏の地方大会に出場した例がある。硬球を扱う危険性などを理由に、特別支援学校に硬式野球部ができる動きは広がっていないというが「けがのリスクは軟式や他競技も変わらないはず」(久保田さん)と訴える。

 日本体育大硬式野球部でプレーした久保田さんは卒業後、養護学校(当時、07年の法改正で特別支援学校)に赴任。最初は障害者と接することに戸惑いもあったというが、キャッチボールを教えてほしいと願い出た生徒との出会いが転機となる。ボールの握り方、ステップ、腕の振り、一つ一つ教え、2人で夢中になった。ひょろひょろだった投球は1時間が過ぎると、20メートルの距離を真っすぐ、胸元へ届くようになった。

 全身で喜びを表現する姿に「障害があろうとなかろうと、できなかったことができる喜び、達成感は健常者と変わらない。夢も同じでいいはず」と心が動いた。ソフトボールを教えながら活動を始められる機会を探り、触れ合いをつづった自著を出版。周囲の支え、生徒への親の励ましもあり、取り組みが始まった。

 久保田さんは「時間をかけて丁寧に教えていくことで可能性が広がる。これを機に自信をつけて、さまざまなことに取り組んでもらうことも目的の一つ」と語った。