山陰中央新報社が企業の合併・買収(M&A)の仲介大手M&Aキャピタルパートナーズと、中小企業の事業承継推進に向けて業務提携した。企業の後継者難が課題となる中、山陰両県でもM&Aを事業承継の手段に選ぶケースは増加傾向にある。事業規模拡大の観点から、後継者がいない県内外の中小企業を引き継いで子会社化した事例もあり、事業の承継と成長を両立させる手法としても浸透しつつある。

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 事業承継には、親族内での承継や従業員への社内承継、社外の第三者へのM&Aという三つの手法がある。これまでは親族内や社内承継が主流だったが、少子化や人手不足などでM&Aが有力な選択肢になりつつある。

 調査会社のレコフデータ(東京都)によると、山陰両県でのM&Aの実施件数(資本参加や出資拡大、資本提携を含む)は、2013年時点で島根0件、鳥取1件だったが、22年にはそれぞれ10件、8件に増加。23年は1~9月までで島根5件、鳥取は前年実績を上回る9件となっている。

 M&Aにより、事業を譲り受ける側は、ノウハウや人材、技術を活用し、短時間に低リスクで新規事業を開始できる。事業を譲り渡す側は、会社を存続し、従業員の雇用を確保できるといった利点がある。かつては外資系企業などが強引な手法でM&Aを行うケースも少なくなかったが、こうした利点に着目し、近年は企業の成長戦略として捉える動きが広がりつつある。

 ビルメンテナンス業のさんびる(松江市乃白町)などを子会社に持つ、さんびるホールディングス(同)は事業拡大を目指して17年から、今年8月までに中四国、九州地方の計18社をM&Aで吸収合併し、子会社化した。

 そのうちの1社で、ビルメンテナンスや飲食店経営の中国文教(出雲市塩冶神前)は親族、社内承継ともに環境が整わず、前社長(77)がメインバンクに相談。今年4月、取引先だったさんびるホールディングスの子会社となり、従業員約40人も引き継いだ。

 新型コロウイルス禍が落ち着いて飲食店経営が回復に向かっており、前社長は「会社を残したいとの思いが強かった。以前から取引がある会社に譲り渡せて安心している」と話した。

 さんびるホールディングスの田中正彦社長は「地域の会社を守り、社員一人一人が幸せになれる環境づくりを進めたい」とM&Aを進める意義を力説する。

 一方、M&Aでは、異なる企業同士の文化や組織の統合に時間やコストがかかったり、期待していた合併効果が出ないケースもある。統合後の円滑な運営には、両社の事情やニーズを初期段階から把握して交渉を進める専門家の存在が鍵になる。山陰中央新報社とM&Aキャピタルパートナーズの業務提携は、こうした課題に対応する選択肢を増やす狙いもある。(石倉俊直)