国際秩序が不安定化を増す中、対立に加担し緊張を高めるのか、対話による緊張緩和に尽くすのか。今求められるのは主体的な外交・安保政策の指針だ。そこで問われるのは、日本が戦後守り続けてきた「平和国家」の理念になる。秩序が揺らぐ時代だけに、普遍的価値である平和を貫く外交・安保政策を求めたい。
岸田文雄首相は年頭の所感で「今年は『緊迫の1年』となる」と指摘、「日本ならではのリーダーシップの発揮が求められており、首脳外交を積極的に展開していく」と強調した。
緊迫の理由として挙げたのが、ロシアによるウクライナ侵攻とイスラエス・パレスチナ紛争などの国際情勢、そして米大統領選など大きな影響を及ぼす選挙が各国で実施されることの2点だ。その状況認識に異論はない。では「日本ならではのリーダーシップ」とは何なのか。
岸田外交の今年最大の焦点は3月にも予定される国賓待遇での訪米となろう。首相はバイデン大統領との首脳会談で日米同盟を一層深化させ、宇宙空間や経済安全保障など幅広い分野での結束強化を確認する方針だ。
ただ、それは日本の外交政策が米国の戦略に組み込まれていくことにほかならない。岸田政権は2022年12月に改定した国家安全保障戦略で防衛力の抜本的強化を打ち出し、他国の領域内を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に踏み切った。昨年末に改定した防衛装備移転三原則では、殺傷能力を持つ武器の米国輸出を解禁した。
反撃能力は中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に置く。米中対立が紛争に至る事態では、最前線で対峙(たいじ)する役割を日本が担う状況が想定される。武器輸出では早速、地対空誘導弾パトリオットの米国への輸出を決めた。米国が使う兵器を補給し、戦略を支える構図と言える。
国家安保戦略や防衛装備移転三原則には「平和国家の歩みを堅持する」などの文言がある。だが岸田政権の決定は、その理念を形骸化するものだと言わざるを得ない。
その一方で、地域の緊張緩和に向けた対話が進んでいるとは言い難い。中国の習近平国家主席とは昨年11月に会談し、「戦略的互恵関係」の推進を確認したが、個別課題での進展はなかった。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との直接会談も実現の見通しは立たない。
そこに各国の選挙が絡む。1月の台湾総統選の結果は中国の今後の出方に直結するだろう。3月のロシア大統領選ではプーチン氏の再選が確実視され、領土交渉の進展は当面、望めまい。日韓関係は尹錫悦(ユンソンニョル)大統領になって好転した。ただ4月の総選挙で与党が敗北すれば政権基盤は揺らぐ。そして11月の米大統領選だ。トランプ前大統領ら「米国第一主義」を掲げる候補が当選すれば日本の外交政策も根底から見直しを迫られかねない。
その時によって立つ基盤が「平和」の理念ではないか。今年は任期2年の国連安全保障理事会非常任理事国としての2年目に入る。国連改革も主導すべきだ。23年版の外交青書は「外交政策の円滑な遂行には国民の理解と支持が不可欠だ」と明記する。反撃能力や武器輸出は国会の審議抜きに決められた。政権には国民に丁寧に説明し、理解を得る姿勢が何よりも求められる。