羽田空港で日航の旅客機と海上保安庁の航空機が衝突炎上した事故を巡り、国土交通省は緊急対策を公表した。管制官がパイロットに「ナンバー1」と出発順を伝える運用を見合わせたり、滑走路への誤進入を知らせる管制塔のモニター画面を常時監視する担当を置いたりする。パイロットに着陸時、滑走路上に注意を払うことも求めた。
当面の対策で、最終的に運輸安全委員会の事故調査報告を踏まえ、抜本的対策を講じるとしている。
国交省が公表した事故直前の交信記録によると、管制官は日航機に着陸を許可。海保機に滑走路進入を許可しなかったが、出発順を「ナンバー1」と告げたことで海保機が離陸許可と誤解した可能性があるという。
日航機は海保機を視認できなかった。着陸機が接近する滑走路に別の機体が進入すると、管制官に注意喚起するモニター画面は事故当時、正常に作動していたとされ、管制官が見落としたとみられる。ヒューマンエラーが重なり、滑走路上の衝突という極めてまれな事故につながったとの見方が強まっている。
事故の恐れがある滑走路誤進入は国内各地の空港でたびたびあり、10年以上前から対策の必要性は指摘されてきた。しかし人の注意や判断を支援し、エラーを補うシステムの整備が遅れるなど課題は多い。安心・安全確保に向け、課題克服を加速させる必要がある。
交信記録によると、管制官は日航機に「滑走路に進入を継続してください」と指示。「出発機があります」「着陸支障なし」と伝えた。直後、海保機に出発順を「ナンバー1」と知らせ「(誘導路上の)滑走路停止位置まで地上走行してください」と指示を出した。
両機とも指示内容を復唱した。ところが、海保機は滑走路に進入して約40秒とどまり、日航機と衝突。機長以外の乗員5人が死亡した。機長は海保などに「許可を得た上で進入した」とし「いきなり(機体の)後ろが燃えた」と説明している。
能登半島地震で被災者支援の任務を帯び、焦っていたのか。この時、滑走路誤進入を警告する管制塔の「滑走路占有監視支援機能」のモニター画面で滑走路が黄色、海保機と日航機が赤色で表示された。管制官は見落としたとみられ、滑走路上の海保機に気付かなかった。日航機側も「衝突直前に一瞬何かが見えた」としたが、海保機を視認できていなかった。
画面監視の担当配置は、他の空港でもできるだけ急ぎたい。また、羽田には誘導路の信号に当たる「停止線灯」が設置されているが、事故当時は工事のため停止中。離着陸する航空機があるのを示す「航空機接近警告灯」は事故現場にはない。
支援システム整備はもちろん、1日に国内線で約千回、国際線で最大約170回の発着がある羽田の過密スケジュールへの対応も求められる。
ほかにも課題はある。羽田事故では運輸安全委の調査と、警察による業務上過失致死傷容疑の捜査が並行して進む。警視庁は安全委から調査報告書の提供を受け、刑事責任追及に証拠として用いることができる。
しかし、当事者は刑事訴追を恐れて安全委に証言しにくくなり、原因究明と再発防止が難しくなるとの指摘は以前からある。調査と捜査を切り離して調査を優先するか、改めて議論する必要があろう。