自民党安倍派の政治資金パーティー裏金事件で信頼が地に落ちたにもかかわらず、岸田文雄総裁(首相)はじめ党内からは「政治とカネ」の抜本的な改革に取り組む熱量を感じない。いくら器をつくっても実効性のある中身が伴わなければ、不信を払拭できまい。
自民党は岸田首相を本部長とする政治刷新本部の初会合を開催。首相は「国民の信頼を回復するため、日本の民主主義を守るため、党自らが変わらなければならない」と強調した。
再発防止策を検討する姿勢を見せることで、批判をかわしたいのだろうが、認識が甘すぎる。改革の第一歩は、党や派閥が政治資金パーティーに関して徹底的に調査し、実態を詳細に明らかにすること、疑惑の持たれた議員がしっかりと説明責任を果たすことではないのか。それが自浄能力である。「東京地検特捜部の捜査」を口実に逃げ回ることは許されない。
裏金づくりを含め、これまで政治とカネなどの不祥事が発覚しても、離党したり、議員辞職したりするだけで、公の場で本人が説明を尽くす場面は皆無だった。国会にはその場として政治倫理審査会が存在するものの、与党が同意しなければ開かれないのが現実だ。政倫審を十分に機能させる、政倫審でなくても疑念が生じたら必ず弁明させる文化を当たり前にすることが欠かせない。
この間、浮き彫りになったのは、政治資金規正法という法律すら守らない自民党議員たちの嘆かわしい規範意識だ。こうした本性があらわになった以上、規制の強化は避けられない。自民党には他党が提唱する改革案をすべて受け入れる覚悟が求められている。
焦点となるのは、政治資金の透明化の徹底と、派閥の在り方だ。前者を巡っては、公明党がパーティー券購入の公開基準を引き下げ、原則振り込みにするほか、会計責任者が立件された場合に議員を連座制の対象にする罰則強化を提案する。
立憲民主党など野党は企業・団体による献金やパーティー券購入の禁止を掲げ、国民民主党は組織的な不正が発覚すれば、政党交付金を停止・減額するよう主張する。政党から議員個人に支給する領収書不要の「政策活動費」の見直しや、カネの流れを国民の不断の監視に委ねるために、政治資金収支報告書のデジタル化も必要だろう。
政策集団を名乗りながら、カネとポストの配分の組織と化した派閥は弊害が鮮明になったのだから、解消するのが分かりやすい。刷新本部は、派閥領袖(りょうしゅう)の麻生太郎副総裁、派閥を否定する菅義偉前首相を最高顧問に据えたが、思い切った改革案を打ち出せるのか、首相の指導力が試される。
だが、ここまでの岸田首相の発言は具体性に乏しく、刷新本部に裏金事件の当事者の安倍派からも多数を起用しており、改革への本気度を疑わざるを得ない。
リクルート事件が起きた1980年代後半、自民党は、若手議員が執行部を突き上げ、政治改革大綱を策定したが、今回はそうした機運は伝わってこない。小選挙区制と政党助成制度の導入によって党執行部の権限が強まり、もの言えぬ空気が醸成されているのが平成の政治改革の帰結ならば皮肉である。古い体質を一掃するには若い力が不可欠だ。いまこそ奮起してもらいたい。