仮設スタンドの装飾作業が進む東京五輪の競技会場「有明アーバンスポーツパーク」=21日午後、東京都江東区
仮設スタンドの装飾作業が進む東京五輪の競技会場「有明アーバンスポーツパーク」=21日午後、東京都江東区

 東京五輪の観客数の上限決定で、無観客が回避され、観戦を心待ちにするチケット保有者からは、安堵(あんど)の声が上がった。だが上限数は競技会場定員の50%以内で最大1万人とされ、再抽選となるチケットも。結果次第では観戦できない可能性があり、わだかまりが残った。 (1面参照) 

 

 「方針決定がずるずる長引いたが、大きな前進だ」と歓迎するのは、レスリングのチケットを持つ東京都杉並区のIT企業経営石川恭子さん(51)。1992年のバルセロナ五輪から現地観戦し「新型コロナウイルスの感染状況によっては突然の無観客も覚悟している。声を出さずに国旗を振って応援します」と意気込む。

 東京都目黒区の会社員斎藤こずえさん(46)は「陸上の400メートル決勝で迫力がある選手たちを見られるかもしれない。正直うれしい」と話す。夫と小中学生の息子2人と国立競技場を訪れる予定で「観戦できるのかどうか連絡がなく、肩すかしが続いた。一日も早く再抽選の方法や日程を示してほしい」と求めた。

 「日本代表選手が活躍する姿を見たい」と声を弾ませるのは、体操を観戦予定のさいたま市の小林未来さん(37)。検温やマスク着用を徹底し、競技会場への直行直帰を守るといい「レアチケット2枚なので、再抽選になったらどちらかを残して」と祈った。

 テニス女子シングルス決勝など5枚のチケットを所有する長野市の玉井政道さん(68)は、98年長野五輪でスキージャンプ団体の金メダル獲得を目の前で観戦した。「アスリートも無観客ではアドレナリンが出ないだろう」と喜ぶ。2回のワクチン接種を終えており「コロナを人にうつすことがないように行動したい」と気を引き締めた。

 

「仕方ない」山陰でも理解

 東京五輪の観客上限を会場の定員50%以内で最大1万人とすることが決まった。山陰両県内のチケット所持者からは、観戦に一定の制約を設けることに理解を示す声が聞かれた。

 「誰もが楽しめる五輪になれば最高だが、コロナ禍なので仕方がない」と話すのは鳥取県ボート協会の杉村正男副会長(66)=米子市別所。ボート女子軽量級ダブルスカルで五輪出場が決まった米子市出身の冨田千愛選手(関西電力、米子東高出)を応援するためにチケットは入手済みだが、今回の決定は致し方ないと見る。

 仮に現地で観戦できなくても、会員制交流サイト(SNS)を使って応援する人を増やすなどして、冨田選手を後押しする考えで「できれば現地で応援したいが、できなくても地元でいろいろな応援をしていきたい」と力を込めた。

 地方から感染者が多い首都圏に移動することに不安を感じ、チケットを持ちながらも、観戦に行かないという選択をした人もいる。

 ビーチバレーのチケットを購入した消防職員、斎藤博之さん(59)=浜田市竹迫町=は、観戦のために予約していたホテルを数日前にキャンセルした。テレビで見て興味を持った競技を間近で見ることを楽しみにしていたが、「感染した時のことを考えると、地方からは行けない」と苦渋の決断を下した。

 陸上競技のチケットを購入した松江市の70代の女性は「上限を設けるのは仕方がない。派手ではなくても、中身がしっかりしたオリンピックになればいいと思う」と話し、自身の観戦予定について問うと「周囲の目もあり、もし再抽選で当選しても行かないかもしれない」と表情を曇らせた。

       (取材班)

 

「無観客が一番安全」コロナ提言の専門家

 東京五輪の観客上限は5者協議で1万人とすることが決まったのを受け、政府などに五輪開催に伴う新型コロナウイルス感染拡大リスクを提言した専門家からは「無観客が一番安全」「具体的な対策の情報を示して」などさまざまな声が上がった。

 政府の対策分科会メンバーの舘田一博・東邦大教授(感染症学)は「無観客が一番安全で、リスクが少ないというのは誰でも分かることだ」と指摘。「観客を入れる場合にはどのように対処して、競技場内外でのリスクを高めないでやっていけるのかを説明してほしい。リスクを負ってでもなお観客を入れるのを決めたのであれば、感染拡大が起こった場合の責任を明確にして安全安心な大会を開いてほしい」と注文を付けた。

 提言に加わった小坂健・東北大教授(公衆衛生学)は、「7月から8月に再流行が懸念される中で、連休中に開会式をやってお祭りムードになるのはかなり感染拡大リスクがある」と警鐘を鳴らす。「観客を入れるに当たり、例えば大会関係者は皆ワクチンを打ってくるなど具体的対策の情報を示してほしい」と要望した。

 

 

再抽選当落  7月判明か チケットの扱い 

 東京五輪の観客数の方針が決まり、今後は定員の50%や1万人の上限を超えている一部のセッション(時間帯)について、チケット購入者を対象とした再抽選が行われる。大会組織委員会は詳細を23日に発表する。当落の結果通知は7月上旬を想定。ただ、ここで当選しても安心できない。新型コロナウイルスの感染状況が悪化した場合には無観客になる可能性が残っている。観戦できるかどうかがはっきりするのは、さらに先になる。

 21日に記者会見した組織委によると、448万枚を販売した五輪のチケットは、大会の1年延期による払い戻しで現在は約364万枚に減った。上限に達しているセッションは全体の「1割強」(橋本聖子会長)。残りの8割以上は上限に届かず、再抽選を実施しない見通しだ。

 再抽選はチケット単位ではなく、購入者単位で行う。