兄は、はしる、走る、奔(はし)る。そして失踪する。弟は知的障害者とみなされた兄の後を追う。いなくなった点と発見された点。その間をつなぐ道のりで、兄が体験したであろう出来事を想像する。

 「なぜ兄はそこに行ったのか」

 発見された場所にまつわる人に思いをはせ、その関係を回想しながら兄の意思を推し量ろうとする弟の思考は、読む者の思考を巻き込んでいく。...