アルバム「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」
アルバム「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」

 大学時代に友人の勧めで「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」を聴き、こんなジャズもあるんだ、と驚いた。サックス奏者オーネット・コールマンが1977年に放ったアルバム。収録曲「テーマ・フロム・ア・シンフォニー」は、プァーワワーワ、プァーワワ…というフレーズが狂ったように繰り返される。くぎを打つような音も加わり、16分近く騒ぎまくる。

 従来のジャズの演奏法に縛られないフリージャズの先駆者とされる。素人耳には、適当に吹いているようにしか聴こえなかったが、妙な楽しさを感じた。

 「スリー・ウィッシーズ」(1988年のアルバム「バージン・ビューティー」に収録)は、パーパラパーパラパパパパ…と中東風メロディーを繰り返す。プァー…と間抜けな合いの手を入れるトランペットも相まって、癖になる。

 気ままフレーズのループが持ち味か。それどころか「スクール・ワーク」(82年のアルバム「ブロークン・シャドウズ」に収録)は「テーマ・フロム・ア・シンフォニー」のフレーズがそのまんま登場。使い回しもかい、と頬が緩んだ。

 ジャズの帝王マイルス・デイビス(トランペット奏者)はオーネットを嫌っていたと聞く。新たな音楽を模索し続けてジャズの幅を広げ、太っ腹なはずのマイルスがなぜだろうか。オーネットが手抜き&ワンパターンに見えて、あきれたのかもしれない。

 決して演奏技術が高いとは思えないのに、多くの個性派ミュージシャンに慕われ、名カバーも生んだ。

 ギター奏者パット・メセニーはオーネットの曲を好んで取り上げ、アルバム共作も果たした(1986年の「ソングX」)。サックス奏者ジョン・ゾーンはカバー曲集のアルバムを作ったほど。原曲を高速で演奏して狂乱度を高め、オーネット愛を表した。

アルバム「ニューヨーク・イズ・ナウ」


 「ブロードウェイ・ブルース」(68年のアルバム「ニューヨーク・イズ・ナウ」に収録)は、ベース奏者ジャコ・パストリアスのカバーが秀逸。「ランブリン」(60年のアルバム「世紀の転換」に収録)は、サックス奏者デビッド・サンボーンがとてもかっこよくアレンジしている。

 適当に吹いた原曲に、原石としての磨きがいがあるのだろうか。それとも、オーネットの伸び伸びした演奏が周囲の創作意欲をかき立てるのだろうか。
   (志)