3Dプリンターのノズルの先から食材が細く押し出され、円すい状に美しく積み上がっていく。3Dプリンターで作る「サイバー和菓子」が約20分で完成した。食べ物のデータを転送し、同じ形で同じ味の食べ物を作り出すプロジェクトが進んでいる。
3Dプリンターは、データを基に3次元の物体を作り出すことができる機械。さまざまな素材を使うことができるため、人工臓器や模造銃なども作ることができる。
これに注目したのが電通のアートディレクター榊良祐さん(40)。2016年にプリンターのインキを、しょうゆや酒、食品で使用される着色料に変更しても印刷できるのではないかと考え、試してみた。印刷する紙も食べることができるシートを利用した。
するとシートには美しいすしが浮かび上がった。プログラムで量を調整すると味も変えることができた。「3Dプリンターなら立体的に食べ物を再現し、データを転送すれば遠隔地でも作れるかもしれない」。プロジェクトは「オープンミールズ」と名付けられて始動した。
甘い、辛い、酸っぱいなどの食品の味覚をデータ化し、同じ食感の食材を探しては試した。食品の形状や味覚に詳しい大学教授や食品会社、機械メーカーの協力を得て共同で研究を進めた。
そして和菓子の作成に取りかかった。和菓子の素材である白いこしあんを含んだ「練り切り」を職人に依頼。ノズルで押し出せるように固さを調整し、エンジニアの協力を得て数値を入力すると、自動で和菓子を作成できるまでになった。
和菓子は季節によって見た目や味が変わる。形状や色は過去の気象データと連動するようにプログラムした。気温が高ければ赤くなり、気圧が高ければ大きくなるなど変化をつけた。試行錯誤を繰り返し、納得できる和菓子が出来上がった。今年は実際に客に和菓子を食べてもらう計画だと意気込んでいる。
榊さんはもう一つ大きな計画を進めている。東京の高級すし店で職人が握ったものと同じすしを、インターネットを通じて米ニューヨークに転送し、3Dプリンターで再現することだ。乗り越えなければならない課題はまだまだ多い。
榊さんは「エンジニアや研究者、料理人など多くの人の知恵を合わせ、世界中どこでも食をシェアできる未来にしたい」と夢を膨らませた。












