「専門料理書」と看板を掲げる波屋書房=7月、大阪市
「専門料理書」と看板を掲げる波屋書房=7月、大阪市
眺めるだけでも楽しい著名料理人による料理書=6月、大阪市
眺めるだけでも楽しい著名料理人による料理書=6月、大阪市
波屋書房の店主芝本尚明さん(中央)と妻昌子さん(その左)ら=6月、大阪市
波屋書房の店主芝本尚明さん(中央)と妻昌子さん(その左)ら=6月、大阪市
大阪市「波屋書房」、千日前道具屋筋商店街
大阪市「波屋書房」、千日前道具屋筋商店街
「専門料理書」と看板を掲げる波屋書房=7月、大阪市
眺めるだけでも楽しい著名料理人による料理書=6月、大阪市
波屋書房の店主芝本尚明さん(中央)と妻昌子さん(その左)ら=6月、大阪市
大阪市「波屋書房」、千日前道具屋筋商店街

 大阪・難波に料理のプロが通い詰める書店がある。1919年創業の「波屋書房」。家族経営で約100平方メートルと広くはない店内の約4割が料理書。各国料理のレシピ集、製パンや低温調理技術を扱う専門書、カフェの経営指南書までそろう。

 「うちの主力はプロ用の本。『3分で作れる』みたいなレシピ本はあんまり売れませんね」と3代目店主芝本尚明さん(86)は苦笑する。とはいえ写真の美しい料理書は眺めるだけでも楽しい。

 黒門市場や調理器具がそろう千日前道具屋筋商店街に近く、遠方からも客が来る。売れ筋は、例えば各地の居酒屋の人気メニューを集めた「The酒菜1500」。「居酒屋を開くんです」「メニューに困ってんねんけど」。そんな相談を受け、芝本さん夫妻や息子らが本を見立てていく。

 ごく普通の町の書店だった三十数年前、食専門の出版社、柴田書店に誘われ見本市をのぞいたのが転機に。「見たこともない料理書をプロが一生懸命見てはる。これはすごい」と驚き、すぐ料理書のフェアをしたいと同社に打診した。売れ筋の成人向け雑誌を撤去して場所を確保し、その後も棚を元に戻さず「専門料理書」と看板に掲げた。

 雑誌の売り上げに頼る町の書店の多くが経営に苦しむ中、単価が高く地道に売れ続ける料理専門書は店の経営を支えた。近所に大型書店が進出し、同業者から「今日がおまえの命日や」と言われもしたが、料理書に限れば大型店にも負けない品ぞろえで、客が離れることはなかった。

 知らない専門書が注文されると1冊余分に発注して並べた。「うちの棚はお客さんが作っているようなもの。いろんな方に支えられてきました」と妻昌子さん(77)。

 飲食店は今、新型コロナウイルス危機の渦中にある。店を閉め連絡が取れなくなった客のことが気掛かりだ。本の売り上げも3分の2ほどに落ち込んだが、休業を強いられても「今のうちに勉強しよう」と専門書を求める客もいる。料理人を本で支えるという書店の気概は揺らがない。

 

▽波屋書房 吉本興業の劇場「なんばグランド花月」にほど近く、演芸書も充実。出番の合間に来店する芸人も多い。河内音頭の河内家菊水丸さんや1980年代の漫才ブームの仕掛け人でプロデューサーの沢田隆治さんも常連。今年5月に死去した沢田さんは、その直前にも東京に本を送るよう依頼したといい、近著「永田キング」なども店に平積みされていた。