「体調はどげですかね」。奥出雲病院(島根県奥出雲町三成)の医師、内田有紀さん(36)が方言を交えて優しく語り掛けると、入院患者の高齢女性の表情がほっと和らぎます。家族のことなど、治療以外の話題で話し込むこともしばしば。中山間地域の小さな病院で、内田さんは患者一人一人に寄り添っています。

島根県川本町や松江市で過ごした後、中学校の時に父親の実家がある奥出雲町に移住。仁多中学校、横田高校を経て島根大学医学部に進みました。医師を志したきっかけは何だったのでしょうか。
「中学校の職場体験です。せっかくなら移転新築で新しくなった仁多病院(現・奥出雲病院)がいいっていう不純な動機(笑)。当時の院長から『田舎の医師が減っているから、ぜひ医師を目指して』って言われて、少しずつ医師を意識するようになって。高校の時、卒業後も地元医療に貢献できる島根大学医学部の地域枠推薦試験を知って、入学しました」
幅広い分野に対応でき、地域医療に欠かせない総合診療医への思いがありましたが、医学部では外科医の道へ。卒業後は島根県内の病院で実績を積み、地域枠推薦の条件である島根県内での勤務期間を終えてもなお、地域医療を支えています。2024年4月から故郷の奥出雲病院で勤務。2人しかいない執刀医の1人です。

「医師になった目的は医療面で地元の役に立ちたかったから。今は主に消化器系のがんなどの手術を週1回執刀するほか、抗がん剤治療や一般外科、救急外来の内科的な対応も行っています。日々勉強ですが、最初に目指した総合診療医のようなことができているのはうれしいです。生まれ育った地域で、少しは役に立てているのかな…」
医師不足や人口減少など、地域医療を取り巻く環境は厳しさが増しています。特に医療資源の限られた中山間地域ではなおさらです。ただ、ふるさとで勤務することで「地域を守りたい」という思いは、より強くなったと言います。
「やっぱり地元の方が元気に、笑顔になってくれる姿はうれしくて、あー、この瞬間が原動力だなって。まずはこの病院が存続し、奥出雲の方が安心に暮らせる場を守りたいです。高齢者が多い地域ですし、できる限り住み慣れた場所で医療を完結できるようにしたいです。課題はありますが、医療スタッフみんなで知恵を絞り、手を取り合いながら故郷に貢献できたらって思います」

内田有紀 島根県川本町や松江市で過ごした後、中学生で父親の実家がある奥出雲町に移住。松江市立病院で初期臨床研修を行い、島根大学医学部消化器・総合外科の医局に入局。益田赤十字病院や六日市病院、松江赤十字病院などでの勤務を経て、2024年から奥出雲病院に勤務する。
オーダーメイドな医療で患者の意思を尊重 課題に向き合う総合診療医
歴史情緒あふれる城下町にたたずむ津和野共存病院(島根県津和野町森村)。町内で唯一の入院設備を持つ同病院で総合診療医として働く濵崎雅文さん(34)は、地域医療を担う医師を養成する自治医科大学(栃木県下野市)の出身です。

「医師を目指したきっかけは、高校1年生のときです。母校の浜田高校であった自治医科大学の説明会にたまたま行って。テレビで見るような都会より、地方で何かできる仕事がないかなと思っていたところで、こんな大学があるんだっていう驚きと、(学費返還の免除制度があり)金銭面で親にも優しいなっていうところで興味を持ちました」
卒業後は県内の離島などで医療に従事し、2021年4月に津和野に着任。院内での診療だけでなく、患者宅や高齢者施設への訪問診療、町内の小中学校の学校医、町の健康づくり部会のメンバーなどをこなし、目まぐるしく走り回っています。人口減少や高齢化が進む中で、医療を単にサービスとして提供するだけでなく、住民の生活そのものを支えることが大切だと感じています。
「持病により自宅での1人暮らしが難しい高齢の患者さんがおられて。本人はやっぱり住み慣れた家で過ごしたいという思いが強かったので、入院や自宅療養を繰り返しながら支援サービスを整え、生活全体を支えました。最終的に本人が施設での療養に納得されるまで、とことん寄り添いました。患者さんの暮らしを目で見て肌で感じたとき、本人の意思を尊重した医療を選択したいと思いましたね」

総合診療医としての経験を活かし、若い医師たちを育成する役割も担っています。「まだまだできることや手をつけられていないことは、いっぱいある」と、直面する様々な課題と向き合いながら、地域医療の未来を模索する日々です。
「人口減少が進む中で、どうやって患者さんに最適な医療を届けるか。一緒に働くスタッフと連携して、一つ一つ、オーダーメイドな医療を提供することで、さらに地域に貢献したいです」

濵崎雅文 島根県浜田市出身で県立浜田高校卒業後、自治医科大学へ進学。島根県立中央病院で初期臨床研修を行い、隠岐広域連合立隠岐島前病院や国民健康保険知夫村診療所、JA長野厚生連佐久総合病院などでの勤務を経て、2021年から津和野共存病院に勤務する。趣味は読書。
令和7年度自治医科大学医学部の入学者募集
自治医科大学とは、地域医療を担う総合医の養成を主な目的として、47都道府県の共同により設立された大学で、定員は123名、全都道府県から2~3名ずつ入学者が選抜されます。
入学生は入学金や授業料等が全額貸与されます。卒業後に島根県知事の指定する公立の医療機関等で一定期間勤務すれば、返還が免除されます。
島根県では、これまでに102名の出身者が自治医科大学を卒業し、医療に恵まれない地域の公立病院等に派遣されるなど、高度で幅広い診療能力を持つ医師として活躍しています。
≪出願期間≫
令和7年1月6日(月)~1月22日(水)17時必着(1月21日(火)消印有効)
≪お問い合わせ・募集要項配布場所・出願先≫
〒690-8501
島根県松江市殿町1番地
島根県庁 医療政策課 医師確保対策室
募集に関する詳細はこちらからも確認できます
TEL:0852-22-6683
FAX:0852-22-6040