長崎市生まれ、英国育ちのノーベル賞作家カズオ・イシグロさんが1982年に発表した最初の長編小説「遠い山なみの光」が石川慶監督によって映画化された。映画は1950年代の長崎の街を主な舞台に、原爆によるトラウマにふたをするように戦後の復興期を生きた人々の姿を描く。イシグロさんにとっては自身のふるさとの物語であり、母親の世代の物語。それを、執筆から30年以上を経て、次の世代が語り直す試みだ。第78回カンヌ国際映画祭が開かれたフランス南部のカンヌで共同通信のインタビューに応じたイシグロさんは、戦争体験者がいなくなる中で、両親から受け継いだ記憶を、さらに若い世代に伝えていく責務があると語った。(聞き手=共同通信 田中寛、橋本亮)
(1)意識した日本映画の伝統
―原作で、戦後間もない困難な時代に、自由であることを求めた女性の姿を描いたことに先見性を感じました。なぜそうしたテーマを書こうとしたのでし...