証明や音響、海上の演出まで神楽に集中できる環境が整っている
証明や音響、海上の演出まで神楽に集中できる環境が整っている
舞乃座で華やかなスポットライトを受け、大蛇を上演する地元の神楽団体
舞乃座で華やかなスポットライトを受け、大蛇を上演する地元の神楽団体
証明や音響、海上の演出まで神楽に集中できる環境が整っている 舞乃座で華やかなスポットライトを受け、大蛇を上演する地元の神楽団体

 専用劇場の舞台上で、スポットライトを浴びた大蛇(おろち)が所狭しと躍動する―。ドライブイン神楽の里舞乃市(江津市後地町)の敷地内にある「石見神楽劇場舞乃座」は、正面後ろの幕を開けて舞い手が現れるという、神楽の演出に特化した舞台が特徴的。観光客や多くのファンを楽しませる。 (西部本社報道部・陶山貴史)

 舞乃市を運営する浅利観光(江津市浅利町)や、江津市内外の神楽好きの有志でつくる実行委員会が運営。舞乃市の店内で毎月地元の神楽団体の定期公演を続けると好評だったため2019年、約100の客席を設けてオープンした。舞台正面から幕一つを隔てて舞台袖、楽屋と続く独特の造りは演出とともに舞い手の使い勝手の良さを意識した。

 浅利観光の植田智之常務は「神楽団体が集中できる環境がそろっている」と強調。市民ホールのように万能型の舞台ではなく「神楽以外なら使い勝手が悪いだろう」と笑う。

 劇場は木造平屋で、天井にちょうちんがつるされ演目のイラストなどが描かれる。舞台は照明や神楽の衣装映えを意識して黒塗り。公演時は会場全体の明かりを消し照明はスポットライトのみで、観客が見入る仕掛けを整えた。

 毎回の公演の前に実行委員会のメンバーで話し合い、地元の大都神楽団を中心とした出演団体の決定や、新作演目の上演など内容を決める。

 観客の入りで神楽団体へ払う謝金が変わるのも特徴の一つ。大都神楽団の頭取で実行委員長も務める杉井公人さん(38)は「お客さんから入場料を頂いている。しっかりと練習し、レベルの高い舞を見せないといけない」と話す。

 ■広がる交流の輪

 客席側もまた、石見神楽を通した交流の輪が広がっているという。県外から初めて神楽を見に来た観光客に、地元の常連客が演目の見どころや登場人物などを解説。時には、観光客に国指定天然記念物・石見畳ケ浦(浜田市国分町)など地元の名所を紹介する常連客もいる。杉井さんは「神楽は老若男女で楽しめる共通の話題でもある」と笑顔を見せる。

 新型コロナウイルスにより、観客の入場制限を設けるなど対策を施した上での公演が続く。「石見神楽に興味を持ってもらうきっかけになればうれしい。神楽を(次代に)つなぎたい」と杉井さんは語る。 

記者の目 謝金、寄付金で費用賄う

 伝統芸能でありながら観光素材、イベントで欠かせない石見神楽は、軽快なリズムに激しい舞、きらびやかな衣装が人気の理由だ。道具類は高価で傷みやすい。神楽団体は出演時の謝金や観客が渡す寄付金「御花(おんはな)」で費用を賄う。

 公演に必要なのは、日本遺産の構成文化財にもなっている豪華な刺繍(ししゅう)衣装や神楽面、大蛇の蛇胴、奏楽の太鼓など多種多彩で、マイクなど音響機材も加わる。荷物を運ぶトラックを持つ団体もあり、出費は何かとかさむ。

 金糸や銀糸を使った神楽衣装は「水干(すいかん)」「鬼着(おにぎ)」などの役別、肩のボタンを外して柄を変える「肩きり」といった構造別などで、20種類以上ある。竜や虎などの装飾が施され重量感があり、高級品ともなると価格は200万円を超す。激しい舞で傷むことがあり、一定期間で交換を迫られる。

 収入源の公演が、新型コロナウイルスの影響でなくなった。このため、団体を支援する動きも出ている。

 浅利観光は運営資金を募るクラウドファンディング(CF)を始めた。2月に舞乃座を無料で貸し出し、江津、浜田、益田3市の計6団体が特別公演を打ち、収入確保に努めた。寄付者には特別講演のDVDや特産品を贈った。

 コロナ禍の今、もし神楽を見て「素晴らしい」「感動した」と思ったら、ぜひ団体に「花を打つ」(寄付する)ことを考えてほしい。神楽では伝統的な客側の好意や善意の表し方であるし、舞い手として長年、神楽に携わる記者の小さなお願いでもある。

      (陶山貴史)