浜田市原井町の「山陰浜田港公設市場」(愛称・はまだお魚市場)には、浜田漁港で水揚げされたアジやノドグロといった鮮魚、加工品が並ぶ。
市の第三セクターが運営していた「しまねお魚センター」の土地と建物を市が買い取り、既存の公設市場と統合して7月に全面オープン。事業費約7億円で、水産都市・浜田の新たな魅力発信拠点との位置づけだ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けるものの、島根県内や広島県などから集客。8月の休日の平均客数は861人と、目標を2割上回った。
近くにあった仲買市場が移り、観光客向けに鮮魚や加工品を販売。飲食エリアもあり、9月下旬に夫婦で訪れた広島市佐伯区の税理士、寺尾大介さん(49)は「新鮮な魚を目当てに数年ぶりにやって来た。建物がきれいになった」と喜んだ。
▼雇用の場喪失
ただ、浜田漁港を取り巻く環境は厳しい。
不漁続きで2020年の漁獲量は9657トンにとどまり、記録が残る1960年以降で初めて1万トンを割った。ピークの90年と比べると20分の1と深刻だ。
漁獲高も下降線をたどり、2020年は34億300万円と過去最少。市は養殖・畜養も加えて100億円を目指す構想を掲げるが実現には程遠い。
追い打ちをかけるように浜田漁港に水揚げする沖合底引き網漁船団は事業停止が続き、現在は4船団に。巻き網漁船団も減った。
影響は地元の水産卸・加工業に及び、業者でつくる浜田魚商協同組合の石井信孝事務局長(73)は「十分な水揚げがなければ卸・加工業者の仕事は減り、廃業に発展する」と表情を曇らせる。
20年の県工業統計調査によると、市内の食料品製造業の事業所数(従業者4人以上)は45社。13年比で23・7%減となり、多くの雇用の場が失われた。
▼再生へ後押し
公設市場の物販区画にはノドグロなど、浜田を象徴する多彩な商品が並ぶが、市内の製造業者が手掛ける商品は800品目のうち2割強にとどまる。
漁獲量が自然条件などで左右される中、付加価値の高い商品開発を進め、新しい販路を確保する余地がある。
干物商品を製造販売する和田商店(浜田市長浜町)の和田浩会長(56)は「観光施設でもある市場での取り扱いをきっかけに、商品の評判が広く発信される可能性がある」と期待を込める一方、販路開拓に挑戦する同業者がそれほど多くない状況を憂慮する。
市は地元産品の取り扱いが増えるよう商談会の開催や、商品開発と販売促進の補助金支援で後押しする。
新型コロナ禍でも一定の集客力がある公設市場をどう生かし、基幹産業再生の一手にするか。民間の力を引き出す市の手腕が試される。
(西部本社報道部・勝部浩文)