10月の浜田市長選、市議選で船内の不在者投票制度を悪用したなりすまし投票事件は、外部の立会人がおらず公正さの確保が船長、船員らの善意に委ねられる制度の危うさを浮き彫りにした。過去の選挙で同じ制度を使った漁業関係者からは「監視はずさんだった」との声も上がり、制度の信頼が揺らいでいる。 (西部本社報道部・宮廻裕樹)
事件では10月15日、同僚の船員になりすまして市長選と市議選の投票を行ったとして公選法違反(投票偽造)の疑いで、沖合底引き網漁業会社の社員が今月10日、逮捕された。市長選、市議選は10月17日投開票された。
▽「不正は十分可能」
船内の不在者投票は、出漁が選挙期間や投開票日と重なる船員のための制度。出港前か出港後の船内で投票する。船内の投票は船長と、船長が選んだ1人以上の有権者が立会人となり投票用紙に記入後、封筒に入れて船長、立会人、本人が署名し、帰港後に選管に提出する。
市選挙管理委員会によると、事件のなりすまし投票の封筒にも船長ら3人の名前があり、体裁は整っていた。
船内の不在者投票は、2019年参院選を例に取ると県内では、いずれも浜田市内で14人が行った。今回の浜田市長選、市議選では40人が行った。
「船長らの協力がないと実施できない」と浜田市選管の木原圭司事務局長が言うように、公正さの確保は船長や船員の善意が大前提だ。ところが、正しい手順が守られていない実態を指摘する声もある。
島根県内の漁業関係者の1人は数年前に経験した船内の不在者投票について、船内ではなく出港直前の港で行われたと振り返る。出港後は船内業務が多忙を極めるというのが理由だった。投票時に船長や立会人はいなかったといい「なりすまし投票は十分可能だったと思う」と語る。
▽期日前も選択肢
病院の入院患者や福祉施設の入居者向けの不在者投票では13年に、選管が選んだ外部立会人を置くことが公選法で病院や施設の努力義務と定められた。全国でなりすまし投票が続いたためだ。外部立会人を置くかどうかの判断は病院、施設側に委ねられる。19年参院選で県内では病院や施設82カ所が外部立会人を置いて不在者投票を行った。
一方、船内の不在者投票には外部立会人の制度がない。船に外部立会人を乗り込ませるのが難しいとしても、第三者の目を入れて公正さを確保する方策が望まれる。水産都市・浜田市として避けて通れない問題だ。市選管の木原事務局長は、要請があれば市独自に外部立会人を派遣するといった対応も念頭に「対策を考えないといけない」と事件を重く受け止める。
山陰屈指の水産都市・境港市の総務課によると、市内では手続きが面倒な船内の不在者投票は行われず、投開票日に投票所に行けない船員は、期日前投票所に出向くという。期日前投票の積極的な活用も選択肢になりそうだ。













