新型コロナウイルス禍で、最小限の人数での葬儀が行われるようになった中、亡くなった人が最期に身に着ける「死に装束」に対する考え方も変化してきているようだ。識者は「価値観が多様化し、定番というものがない時代だ」と指摘する。
福岡市のアパレルメーカー「ルーナ」は、15年前から、「さくらさくら」というブランド名でエンディングドレス(死に装束)を販売している。
死に装束というと白地の着物のイメージがあるかもしれないが、同社の製品は洋服地で仕立てた着物の襟元に桜の刺しゅうをあしらったり、花柄や青のドレスだったりと、デザイン性と肌に優しい素材が大きな特徴だ。主に女性が着用する。
「コロナ前は『人より華やかな服を』、また逆に『派手すぎないものを』と周囲を気にする傾向がありました」と中野雅子社長。コロナ禍以降、購入者からは「お見送りは最小限しか集まらないですが、こちらの美しい装束で」などと声が寄せられ、最期の姿をその人らしく彩ってあげたい、という願いがにじむように。
中野社長は「『親が施設に入って面会できず寂しかったから、明るい色の衣装で送りたい』という声も頂き、コロナ禍で抑えられてきた気持ちが衣装に反映されて、故人への思いがより強くなったと実感します」。
時代の流れの中、購入者の声から、死生観の変化も感じるという。「ご本人が衣装を準備することで、来るべき日までの人生をその方らしく過ごせている、というお話を伺うこともあります」と中野社長は話す。
葬祭事業を展開する「ティア」(本社名古屋市)が今年8月、40~70代の計千人にインターネットで行った「コロナ禍における葬儀に対する意識・実態調査」によると、「今回のコロナ禍でコロナ報道(訃報など)に触れ、死に対する意識は変わったか」との質問に対し、「大きく変わった」「少し変わった」との回答を合わせると4割超に上った。
葬送ジャーナリストの碑文谷創さんは「今回のコロナ禍もそうですが、大きな災害などがあると、人々が死を身近に感じるようになる」と説明する。
「阪神大震災が起きた1995年以降、日本では葬儀の在り方が大きく変化して個人化が進み、『死に装束』もその頃から選択肢が増えました。価値観が多様化し、葬儀社も遺族の意向のヒアリングに時間をかけるようになっており、今はこれが定番というものがない時代かもしれません」