新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の拡散が止まらず、既存ワクチンや治療法がどの程度有効なのか世界が注視している。「効果はかなり下がる」「重症化予防はできる」。製薬企業の間でも楽観と悲観が交錯する。研究者や製薬大手が分析を急ぎ、2週間ほどでオミクロン株の性質解明のヒントが得られるとの見方も。各国が固唾(かたず)をのんで見守る。
▼一本やり
「人々がワクチンを接種してマスクを着けていれば、ロックダウン(都市封鎖)は必要ない」「われわれには世界で最良のワクチンがある」。バイデン米大統領は2日の演説でこう訴えた。
米国では2日、市中感染が確認された。しかし政権の対策に目新しさはなく、渡航制限以外はほぼワクチン接種加速の一本やり。経済的打撃が大きい都市封鎖は回避したい―。バイデン氏は「とにかく接種を」と繰り返すが、肝心の効果は不明点が多く、ワクチン頼りには危うさが漂う。
▼手掛かり
オミクロン株は人の細胞に侵入する足掛かりとなる表面の突起「スパイクタンパク質」に30カ所以上の変異があることが判明しているが、まだ分からないことも多い。ワクチン接種後に体内にできた抗体がうまく認識、排除できず、オミクロン株の細胞への侵入を許してしまう恐れがある。
米科学誌サイエンスによると、スイス・ベルン大のウイルス学者エマ・ホドクロフト氏はオミクロン株が他の変異株とは別系統で進化してきた可能性を指摘。その起源は、2020年半ばまでさかのぼると推測した。
米モデルナのバンセル最高経営責任者(CEO)は英紙に「(ワクチンの)有効性は大きく下がる」との見方を示した。一方、米ファイザーとワクチンを開発したドイツ・ビオンテックのシャヒンCEOは「接種を完了した人は重症化を高い確率で防げる」と強調。免疫にはウイルスが感染した細胞を殺す白血球なども貢献しており、抗体だけで判断すべきでないとの立場だ。
米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、流行初期に中国武漢で確認されたウイルス株を基につくったワクチンでもデルタ株には効果を示していると指摘。「追加接種で抗体の量を高水準に保っていれば(オミクロン株に対しても)防御効果は望めるのではないか」と期待を寄せた。
感染から回復した人やワクチン接種者の血清を反応させ、オミクロン株の増殖を抑えられるかを調べる実験が進んでいるといい、「2週間ほどで手掛かりが得られるのではないか」と話した。
▼開発に着手
1回接種のワクチンを製造する米ジョンソン・エンド・ジョンソンは「オミクロン株に特化した新ワクチンの開発に着手した」と表明した。
重症化防止が期待され、日本でも使われる抗体カクテル療法を開発した米リジェネロンは11月30日、効果検証を始めたと発表。保有する膨大な種類の抗体の中に、オミクロン株などに対して有効性が見込める候補を見つけており、初期のデータは「12月には得られる見込みだ」としている。
米メルクやファイザーが開発する経口タイプの治療薬については、作用が変異とは関係なく重症化防止効果が見込めるとの見方も上がる。メルク関係者は「オミクロン株にも効果があると期待している」と述べた。(ワシントン、東京共同)