衆院予算委員会の主なやりとり
衆院予算委員会の主なやりとり

 衆院予算委員会の論戦が13日始まり、岸田文雄首相は就任後初めて一問一答形式の質疑に臨んだ。野党の追及を見越し、18歳以下の子どもへの現金・クーポン計10万円相当給付の年内現金一括給付を容認する姿勢に「豹変(ひょうへん)」。自治体の声を聞いたと説明したが、混乱は収まらない。首相の思惑と裏腹に、政権の迷走ぶりを印象付けた。

 朝令暮改

 「年内からでも10万円の現金を一括で給付することも選択肢の一つとしてぜひ加えたい。具体的な制度設計を考えたい」

 首相は13日午前、自民党の高市早苗政調会長からクーポン支給について質問されると、従来方針をあっさりと変更した。

 現金5万円給付の事務経費約300億円に対し、クーポン支給の経費は967億円。自治体の事務負担も重く、不満が上がっていた。首相が午後の野党質問で追及される前に先手を打ったのは間違いない。政府筋は「クーポンを押し通すより、朝令暮改と批判される方がダメージは小さいとの判断だ」と解説した。

 首相周辺は、日本維新の会代表の松井一郎大阪市長らが全額現金給付を求めて以降、首相指示で内々に検討してきたと明かす。「自治体の意向を踏まえた」として首相の「聞く力」も意識する。

 ただ予算委では、自治体が全額現金給付を選ぶ際に「特定の条件は審査しない」(首相)とした。実態は自治体実務に「丸投げ」した格好で、地方には「制度が見えず困っている」(岡山市)などと困惑が拡大した。

 なし崩し

 首相が姿勢を変えた一方、松野博一官房長官は13日の記者会見でも「クーポンが基本だ」と強調した。8日には、現金・クーポンの同時支給は「想定していない」と弁明したばかり。政府に一貫性が欠けるだけでなく、全額現金を容認すれば子育て支援と消費喚起でこだわったクーポンの政策理念はなし崩しになる。

 自民党中堅は「こうなったら現金給付を基本にすればいい。引きずる方が印象が悪い」と来夏の参院選を心配する。

 石原伸晃自民党元幹事長の政治団体による新型コロナウイルス助成金受給を巡っても、首相は歯切れが悪かった。10日に石原氏が内閣官房参与を辞任することで「この問題は終わった」(官邸筋)と決着済みとの認識が漂っていた。

 だが立憲民主党の小川淳也政調会長は質問に立つなり、就任わずか7日の辞任劇に対する任命責任を問い、返す刀で同様の問題が発覚した大岡敏孝環境副大臣を辞めさせないのかただした。首相は人事に踏み込まないまま「適法ではあるが、国民の理解は得られない」と言葉を濁した。

 負の遺産

 小川氏は安倍、菅両政権の「負の遺産」として森友学園を巡る公文書改ざんや日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否もやり玉に挙げた。「聞く力」を引き合いに「耳に痛い声こそ聞かないといけないのに誰に遠慮しているのか、再調査はしない、任命もしない」と切り捨てた。

 新型コロナウイルス「オミクロン株」水際対策の国際線新規予約停止を巡る混乱にも言及。政府の態度が二転三転する事態が続いているとし「三方、四方に都合のいいことは言えない。どこかできちんと折り目を付けないと政治にならない」と突き放した。

 予算委を傍聴した自民党ベテランは「争点つぶしを図った割に、首相の答弁は中途半端だった」と表情を曇らせた。