中国電力が再稼働を目指す島根原発2号機(松江市鹿島町片句)を巡って、松江市議会は21日の本会議で、地元経済団体が提出した早期の再稼働を求める陳情8件を賛成多数で採択し、事実上、再稼働を容認した。

 最終的な受け入れの可否判断は上定昭仁市長に委ねられるものの、市長は市議会などの意見を踏まえて判断すると表明しており、立地自治体の容認に向けたレールが敷かれたと言っていい。もう一つの立地自治体である島根県の可否判断にも影響を与えそうだ。

腑(ふ)に落ちないのは、市議会がなぜこんなに急いで容認の流れを作ったか、である。原子力規制委員会の審査合格から、わずか3カ月での「スピード判断」は、既に地元同意の手続きが終わった東北電力女川原発2号機が立地する宮城県石巻市の7カ月に比べて、はるかに短い。

 女川原発の場合、東日本大震災の大津波で多くの人命が犠牲になり、経済活性化に原発再稼働が不可欠だったことが理由にある。果たして松江市にそこまでの切迫感があるだろうか。

 島根原発2号機の可否判断を来年夏の参院選の争点にしたくないという「政治日程」も取り沙汰されるが、それにしても早すぎる感は否めない。

 加えて島根原発は、規制委による指摘で防波壁の新たな工事が必要となり、中電は再稼働の前提となる安全対策工事の完了時期を2021年度内から23年2月に延期。再稼働は全ての工事が完了する「23年度以降」に先延ばしされた。工程が延びる中での早々の容認は、いくら新型コロナウイルス禍で経済が疲弊しているからといって、原発の安全性を懸念する住民にとっては理解し難いだろう。

 そもそも再稼働の可否を判断する上で、乗り越えなければならないハードルは多い。10年前の東京電力福島第1原発事故を踏まえて島根原発の安全性をどう担保するのか、脱炭素社会実現に向け原発をどう位置付けるのか、原発から排出される高レベル放射性廃棄物(核のごみ)問題をどう解消するのか…。

 10月上旬から中電や地元自治体が開いた住民説明会では、原子力規制庁や内閣府、経済産業省資源エネルギー庁の担当者がそれぞれの分野で説明を繰り返した。しかし、参加者からの質問に具体的な言及を避けるケースが多く、消化不良感を抱いた住民も少なくなかった。

 説明会は立地自治体の松江市だけでなく、周辺自治体でも丹念に開催された。コロナ禍で参加しにくかっただけに一部ではオンラインによる聴講を行うなど工夫が凝らされていたが、会場は空席が目立った。その理由には、地域課題に対する国民の関心の薄れもあるだろう。

 そう思わせたのが、10月の衆院選沖縄3区の結果だった。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設地となっている名護市辺野古をエリアとし、これまでの選挙では移設に反対する「オール沖縄」と呼ばれる勢力が推す候補が勝ってきたが、今回は移設を推進する自民党新人に敗れた。

 観光業が中心の沖縄では、コロナ禍で地元経済が大きく疲弊しており、移設問題より、経済対策を唱える自民党候補が人気を集めたとの見方が強い。

 翻って、山陰でもコロナ禍の経済対策に期待する人が多いだろう。とはいえコロナ禍を隠れみのにし、ハードルを乗り越えることなく再稼働に走っても、住民の理解は得られない。