東京地検特捜部は所得税法違反の罪で、日本大学前理事長の田中英寿容疑者を起訴した。背任事件で逮捕・起訴された日大元理事と医療法人前理事長に加えて、日大と取引のある業者らから昨年までに1億2千万円近い現金の提供を受けながら申告せずに隠し、所得税約5200万円を免れたとされる。田中被告は起訴内容を認めている。

 5期13年にわたってトップの座にあった田中被告は意に沿わない幹部や職員を徹底して排除した。そうした中で重用された元理事の井ノ口忠男被告が中心になり、医学部付属病院の建て替え工事などを巡って大学の資金4億円余りを不正に流出させて着服し、田中被告に”上納”していた。

 学内で誰も田中被告や元理事の専横に異を唱えることはできず「ガバナンス(統治)不全」があらわになった。日大は大学運営の見直しを進めるが、折しも文部科学省の専門家会議が私学の最高議決機関を理事会から「学外者」のみの評議員会にするよう提言する報告書をまとめた。これを参考に、文科省は私立学校法の改正を検討する。

 ただ重要な経営判断を学外者に任せきりにするのは行き過ぎではないか|などと私学から反発が相次ぎ、現時点で改正の行方を見通すのは難しい。日大はまず、学生や教職員から幅広く意見を吸い上げる仕組みを整え、ボトムアップの改革に取り組む必要がある。

 私立学校法は役員として理事5人以上、監事2人以上を置かなければならないとし、理事のうち1人が学校法人を代表し業務を統括する理事長になると規定。理事会の諮問機関として、法人の職員や卒業生らの評議員会があり、予算や事業計画などについて意見を述べる。監事は業務や財産を監査する役割を担い、不正行為を発見したときには文科省に報告する。

 ただ監事は理事長が選任するため、独立性が高いとは言い難い。結果として理事長に権力が集中し、日大では田中被告と、その威光をバックに昇進を重ね、理事となった井ノ口被告が大学の資金を食い物にするのを防ぐことができなかった。

 大阪府の学校法人でも元理事長が21億円を横領するなど私学の不祥事は後を絶たず、文科省の専門家会議が再発防止に主眼を置き、報告書を出した。学外者のみで構成する評議員会が法人の最高議決機関として予算や事業計画などを決定。理事の選任や解任も行えるようにし、理事会を業務の執行機関に格下げする。

 だが私学側は学生や教職員と接点のない学外者がどうやって事業計画を立てるのか、大学の自治が損なわれる|などと反発。自民党文部科学部会では「評議員会に圧倒的な権限を与えても、理事会にとって代わるだけでは」と疑問の声も上がり、文科省が来年の通常国会に提出したいとしている改正案の取りまとめに影響しそうだ。

 日大は有識者から成る再生会議で、理事会に対するチェック機能の強化や理事・評議員の選任方式、内部通報制度の整備などの議論を進めることになり、来年1月上旬に再発防止に向けた管理体制の検討状況を文科省に報告。2月にも最終報告書をまとめる方針だ。

 その過程では、一連の事件で大学の対応が後手に回ったことで不安や不信を抱えた学生や教職員が再生の主役であることを忘れてはならない。