改正高年齢者雇用安定法が4月1日に施行された。企業は社員が希望すれば65歳まで雇用することを既に義務付けられているが、今後はフリーランスや社会貢献事業などの選択肢も加え70歳までの就業機会を確保することが努力義務になった。

 政府が「全世代型社会保障」の一環として目指す「70歳まで働く社会」が本格化する。少子高齢化の進む日本は、30年後には現役世代が高齢者の暮らしをほぼ一対一で支える「肩車型社会」を迎える。そのため高齢者もなるべく長く働き、支えられる側から支え手に回ってもらう狙いだ。

 ただ新型コロナウイルス感染拡大が懸念材料だ。昨春までは人口減少・少子高齢化が影響した人手不足と比較的良好な経済状況により安定していた雇用情勢がコロナで暗転。今や高齢者が若者の雇用を圧迫する恐れが顕在化した。政府は社会保障制度安定のためにも労働市場での世代間競合を避けるよう監視、防止に手を尽くすべきだ。

 高齢者雇用の現状は、継続雇用や65歳定年などで65歳まで働ける企業が99・9%だが、66歳以上でも働ける制度がある企業は33・4%。4月からは継続雇用と定年延長・廃止に加え、個人事業主として業務委託契約を結んだり、社会貢献事業に就いてもらったりする方法も含めて70歳までの就業機会を確保する努力義務が企業に課される。

 65歳以降も働くことを前提とする改革はほかにもあり、従来60~70歳の間で選択してきた公的年金受給開始年齢は来春75歳まで広がる。いずれも社会保障財政の安定化に加え、少子化により働き手の中心となる若者世代が激減するのを補う労働力確保の狙いがあった。

 人手不足で労働力の売り手市場が続いていれば問題は表面化しないだろう。実際に、コロナ禍の前は運輸、サービス、医療・福祉などの分野を中心に人手不足が深刻で、若者の採用では足りない分、高齢者の活用を進めてきた側面が強い。

 だがこれは半面、限られた仕事を若者と高齢者が分け合う状態では「競合」が生じるということだ。特に若者と高齢者の仕事内容が似通っていて両者が代替可能な場合、企業が継続雇用の高齢者を増やせば、人件費抑制のため若者の新規採用枠が絞られて結果的に雇用を奪う可能性がある。

 そこを襲ったのがコロナ禍だ。コロナ関連の解雇や雇い止めは東京、大阪など大都市圏を中心に累計9万8千人を超え、うち過半数は正社員だ。産業別では製造業が最多で2万人超。このまま景気低迷が続く中で企業が70歳までの就業機会確保を進めれば、若者の雇用への影響拡大が心配だ。

 それでは「共存」は可能なのか。高齢者と若者が代替可能な関係から、それぞれ強みを生かし補完し合う存在になれるかどうかがその鍵になる。若者は体力を必要とする仕事、パソコン操作、新しい分野への順応に優れる。高齢者には豊富な経験、人脈、技能がある。一方の排除ではなく、これらを結合させることで生産性を上げ、企業価値を高める道を探るべきだ。

 またコロナ禍での雇用悪化は、高齢者や女性の就業拡大により2千万人を超えた非正規労働者でより深刻だ。1月は前年同月比で91万人減り、中でも女性へのしわ寄せが大きく68万人減った。ここでも高齢者との競合回避が喫緊の課題だ。