アーティストらの団体による調査で、美術や映画、演劇といった表現の現場におけるジェンダーバランス(男女比)に著しい不均衡があることが明らかになった。この構造はハラスメントの横行につながっているだけでなく、表現そのものにも影響を与え、社会全体の多様性や活力を損なっている恐れがある。関係者が問題意識を共有し、是正に乗り出してほしい。

 創作の世界でのハラスメント解消を目指し、アーティストら十数人が結成した「表現の現場調査団」が昨年12月に公表した調査結果(中間報告)によると、東京芸術大など15大学の芸術系学部の学生は平均すると73%が女性だった。これに対し教授の87%、准教授の73%、講師の72%が男性で「教える側は男性、教えられる側が女性」という構図が鮮明になった。

 調査団は文化・芸術関係の賞の選考にも注目した。美術や演劇、映画の複数の賞を調べたところ、審査員の8割前後が男性だった。文芸関係の賞だけは男性が6割ほどで、他分野に比べると少ない。ただし文芸関係でも評論分野だけは別で、例えば小林秀雄賞やすばるクリティーク賞の審査員は全員男性だった。

 調査のきっかけは、同じ調査団が昨年3月に発表した「『表現の現場』ハラスメント白書2021」だ。深刻な被害が多数報告され、原因の一つとしてジェンダーバランスの偏りが指摘された。

 白書から具体例を引く。美術の現場では「師事した人からヌード撮影を頼まれ、誰にも相談できず撮影を受けた」(30代女性)、「インパクトが足りないと裸のパフォーマンスを何度も勧められ、展示を辞退した」(20代女性)など。

 演劇や映画の現場でもひどい事例がある。「いいものを作るためにはセックスが必要だ」と言う演出家。「面白いことができないのなら臀部(でんぶ)を露出して排便するように」と指示する演劇関係者の姿も報告されている。

 広島大ハラスメント相談室の横山美栄子教授(社会学)は「男性が多数を占める集団では、男性が自らの優位性や特権性に気付くことが難しい」と分析。「女性だけでなく、性的少数者に対しても抑圧的になっている可能性がある」と話す。

 この見方を裏付けるように、男性でも性差別的な文化を拒否する人は被害に遭っている。白書には「レイプなど性被害の描写は苦手だと事前に申告していたにもかかわらず、資料としてレイプシーンを含むものが送られてきた」(40代男性、漫画家)という声がある。

 性暴力を被害者が告発する「#MeToo」運動は、米ハリウッドの大物プロデューサーによる加害行為が報じられたことで広がった。日本でも2018年、写真誌の編集長・発行人を務めてきたフォトジャーナリストによるスタッフへの性暴力が発覚した。

 アーティストの美意識や価値観が何よりも尊重されるべき文化・芸術分野で、後進を選抜し、指導し、評価する側が男性に偏っていることによる悪影響は計り知れない。

 白書に見られるような抑圧的・暴力的なコミュニケーションは、表現において最も大切な自由と創造性を奪い、個の尊厳を傷つける。われわれマスメディアを含め表現に関わる機関がジェンダーバランスに配慮することを「初めの一歩」としたい。