通常国会で衆院憲法審査会の実質審議が始まった。予算案の審議中に審査会を開くのは異例だが、自民党に加えて改憲論議に前向きな日本維新の会や国民民主党が開催を主張、立憲民主党も応じる形となった。

 ただ、改憲に対する各党の見解は異なっている。改憲には国会発議を経て国民投票で過半数の賛成が必要だ。憲法は今年5月で1947年の施行から75年となる。その条文を変える必要が本当にあるのか。国民がそれを求めているのか。世論に耳を傾け、丁寧な議論を重ねるよう求めたい。

 自民は憲法9条への自衛隊の明記など4項目の改憲条文案をまとめており、具体的な改憲案の審議を早期に始めるよう求めている。岸田文雄首相は、党の改憲推進本部の名称を改憲実現本部と変え、改憲実現に意欲を示す。

 維新は今夏の参院選に合わせた国民投票の実施を目指して議論を急ぐよう主張している。

 これに対して立民は「改憲ありきではない」として改憲の手続きである国民投票の公平・公正さを担保するためのCM規制などの課題を先行して議論すべきだと主張。共産、社民両党は改憲論議自体に反対している。

 夏の参院選に合わせた国民投票の実施は時間的に無理がある。ただ、参院選は今後の改憲論議を左右する重要な選挙になろう。昨年の衆院選の結果、改憲論議に前向きな自民、公明、維新、国民民主の各党で国会発議に必要な総議員の3分の2以上の議席を占めた。参院選でも改憲勢力が3分の2の議席を占めれば議論を進める動きが強まるのは確実だ。

 しかし、各党が重視する論点は異なっている。自民が9条改正や大規模災害時に内閣に権限を集中する「緊急事態条項」の新設などを主張するのに対し、衆参両院の権限の在り方や臨時国会召集要求への対応など統治機構の課題、インターネット時代の人権の在り方など新たな課題を挙げる政党もある。各党が見解を示し、腰を据えて議論に取り組む必要がある。

 問題なのは、自民の議員らが「改憲論議は国会議員に課せられた重大な責務だ」と強調することだ。確かに改憲発議を決めるのは国会だ。だが、憲法99条は国会議員に「憲法を尊重し擁護する義務」を課している。改憲は議員の責務ではなく、国民から求める声が上がった場合に、取り組むのが本来の在り方だ。

 国民の間で今、改憲が優先順位の高い課題になっているとは言い難い。国会が独走して改憲論議を進めるのは慎むべきだ。

 衆院の憲法審査会では、新型コロナウイルスの感染拡大の緊急時に、国会審議をオンラインで実施することの是非が議題になっている。憲法56条は「総議員の三分の一以上の出席」を議会開催の定足数として定めている。「出席」の意味をどう解釈するのかが課題だ。

 各党ともオンライン審議の実施には前向きな見解を示している。立民は衆院規則の変更で可能だと主張、公明や国民民主も同調した。

 これに対して自民は、「緊急事態条項新設」のテーマの中で議論すべきだと主張した。党でまとめた改憲条文案の議論につなげようという狙いだろう。だが強引な議論では広い合意の形成は不可能だ。落ち着いた環境で議論を進める信頼関係の構築に努めるべきだ。