日本大学の取引業者からのリベートなど約1億1800万円を隠し、所得税約5200万円を免れたとして所得税法違反の罪に問われた日大前理事長の田中英寿被告は東京地裁で開かれた初公判で、起訴内容を全て認めた。5期13年にわたりマンモス私大のトップとして絶大な権限を振るい、大学運営を私物化したと厳しい批判を浴びた。
側近中の側近といわれた元理事も医療機器導入などに絡み大学から4億円余りを不正に流出させたとして背任罪で起訴され、学校法人のガバナンス(組織統治)をどのように強化するか、文部科学省は有識者らの議論を踏まえ検討を加速させている。早期に私立学校法を改正したい考えだ。
ただ意見集約は容易ではない。文科省の専門家会議は昨年12月、私学の最高監督・議決機関を理事会から「学外者」のみの評議員会に変更し、理事の選任・解任権を与えるとする改革案を提示したが、私学側が「学外者に責任は取れない」などと猛反発。自民党内にも疑問の声があり、文科省は新たな会議で議論を仕切り直すことにした。
学校法人の役員を対象に贈収賄などの罰則を導入する案もあり、現時点で改革の行方を見通すのは難しいが、私学経営に大きな転換をもたらすのは間違いないだろう。丁寧に議論と説明を尽くし、学生や教職員も含めて、より幅広い理解と合意を目指す必要がある。
学校法人制度を巡り政府は2019年6月、閣議決定した骨太方針で「社会福祉法人制度などの改革を十分踏まえ、同等のガバナンス機能が発揮できる制度改正のため、速やかに検討を行う」と明記。続いて自民党行革推進本部の検討チームが提言をまとめ、私学改革の議論が動きだした。
提言は「評議員会は諮問機関と位置付けられ、実質的権限はなく、役員らに対する監督機能を十分果たせる組織になっていない」と指摘。「議決機関に変更した上で、役員の選解任権限などを付与すべきだ」とした。
18年に日大アメリカンフットボール部の悪質タックル問題や東京医科大不正入試などで私学に厳しい視線が集中。16年の法改正で評議員会の設置を義務付け、役員の選任・解任の権限を持たせるなどガバナンスが強化された社会福祉法人に比べて、学校法人の改革は立ち遅れているという問題意識が広がっていた。
昨年3月に文科省の有識者会議は、評議員会に中期計画など一定の重要事項を議決する権限を持たせる「基本的な方向性」を提示。その9カ月後、弁護士や公認会計士が中心の専門家会議が出した提言はさらに踏み込み、学外者のみの評議員会を最高監督・議決機関とし、理事の選任・解任も含め権限を集中させるという改革案を示した。
いかに不祥事を根絶するかを突き詰めた結果だろう。とはいえ、学外者に任せきりでは大学の自治や教育の自由などに影響が及び、短期で成果が出やすい研究を優先する恐れもあるという私学側の懸念ももっともといえる。文科省が立ち上げた新会議で、この案は修正される見通しという。
その新会議では、文科省が提案した刑事罰導入に私学関係者から反対の声が上がっている。なお曲折がありそうだが、くれぐれも拙速は避けたい。学生の勉学や将来にも少なからず影響することを忘れてはならない。