トラブルを避けるために、入居後確認しておきたいポイントとは?
トラブルを避けるために、入居後確認しておきたいポイントとは?

 春は入学や就職、転勤に伴い、新居で生活を始める人が多い。慣れない土地で部屋を借り、引っ越しを終えるとつい安心してしまいそうだが、入居後のトラブルは意外と多い。快適な新生活を送るために確認したいポイントや日頃の生活で意識すると良いことは何か。専門業者に話を聞いた。(Sデジ編集部・宍道香穂)

▷まずは汚れや傷の確認、申請
 松江市を中心に賃貸物件約3400戸を管理し、年間約1000戸の仲介業務を担う有限会社朝日住宅(松江市西津田4丁目)の賃貸事業部管理営業課長の須山大輝さん(31)に聞いた。

有限会社朝日住宅 賃貸事業部管理営業課長の須山大輝さん

 まず確認したいのが、室内の傷や汚れ。賃貸住宅に入居する場合、前に住んでいた人が部屋に付けた汚れや傷が残っていることがある。入居後すぐに傷や汚れを確認し、申告しておくことで、退去時に余分な修繕費を払うことなく、スムーズに手続きができるという。

 須山さんは「ベッドなど家具を置く場所の床や壁紙は傷が付きやすい」と話した。ほかにも、ドアやクローゼットの扉といった建具は使っているうちに立て付けが悪くなったり、傷が付いたりしやすいという。
 元から付いていた傷、汚れの申告期間はオーナーや仲介業者によりさまざまで、朝日住宅では入居後10日以内に申告するよう呼び掛けている。

壁紙は家具や体が当たると傷が付きやすいため、注意深く確認したい。(以下全て須山さん提供)

▷きれいな部屋を保つポイントは
 入居後に少しずつ気になってくるのが、排水口や換気扇の汚れ、カビ、虫などの問題。

須山さんのアドバイス
「日頃の掃除やメンテナンスを工夫することで快適な部屋を保つことができる」

【排水口】
 排水口の詰まりは、ごみや食べかす、揚げ物に使用した油をそのまま流していることが主な原因という。

須山さんのアドバイス
「三角コーナーで大きなごみを分ける、油は固形にしてから捨てるといった心掛けで、多くの排水口トラブルを予防できる」

 近年は節水式のトイレを導入する人が増えているが、水流が不十分で配管を詰まらせてしまう原因となりやすいため、使用する際は注意が必要だ。

 【換気扇やエアコン】
 換気扇やエアコンの内部は使用しているうちに汚れがたまりやすい。

キッチンの換気扇は油汚れが付きやすい。あらかじめ汚れ対策をしておくと、手入れがぐっと楽になる。

須山さんのアドバイス
「市販のフィルターを付けておくと手入れが楽になる」

 最近は取り付けやすいシール式のフィルターもある。内部のプロペラなどに直接、汚れが付くのを防ぐことができ、汚れたら新しいものに付け替えれば良いため手入れの手間がグッと減りそうだ。

 【防虫対策】
 これから暖かくなってくると防虫対策も欠かせない。

 須山さんは、虫はエアコンホースや換気扇、排水口など外部とつながる隙間から入ってくることが多いとし、

須山さんのアドバイス
「エアコンホースに市販のキャップを取り付けたり、洗濯機のホースやシンク下の排水口を養生テープで覆ったりすることで、虫の侵入を防ぐことができる」

 隙間を覆う際にガムテープなど粘着力が強いものを使うと、退去時に跡が残ってしまい修繕費を請求される可能性がある。粘着性の低い養生テープを使うのがお薦めという。

 【カビや臭い】

カビや臭いの対策は、空気の入れ換えや除湿機能の活用がポイント。

 須山さんは「窓を閉め切っていると湿気がたまり、カビや臭いの原因となる」と話す。同じ部屋でも換気の有無でカビの生えやすさが大きく異なるという。

須山さんのアドバイス
「鉄筋コンクリート製の建物は特に湿気がこもりやすい。こまめに換気扇を回す、エアコンの除湿機能を活用するなど対策を」

 湿気がこもると、衣類の臭いの原因にもなる。部屋のドアだけでなく、クローゼットも定期的に扉を開けて空気を入れ換えるよう心掛けたい。

▷代表的なトラブルと防止策
 部屋にある家具や家電について、オーナーなどがあらかじめ取り付けているものを「設備」、前の住人が新たに取り付けたものを「備品」と呼ぶ。設備と備品とでは、不具合が生じたときの対応が異なるため注意が必要という。

 例えば使用しているエアコンに不具合が生じた時、もともと取り付けられているものであればオーナーや管理業者に修繕をサポートしてもらえるが、前の住民が個人的に取り付けたものは、自己負担で修理しなければならない。備え付けられている家具や家電が、前の住人が取り付けた備品なのか、もともと備え付けの設備なのか、しっかり確認しておきたい。

あらかじめ取り付けられているのか、前の住人が追加で取り付けたのかを確認しておきたい。

 【敷金】
 物件の賃貸でトラブルが多いのが、退去時の敷金の精算。退去時には、部屋を借りたときの状態に戻す「原状回復」にかかる費用が請求される。入居している間に付けてしまった傷や汚れの修繕のほか、設備品の破損や紛失により費用がかさむこともあり、思わぬ金額が請求されて驚く場合もある。スムーズに退去するために心掛けたいことは何か。

 須山さんは「まずは入居時に契約書をきちんと確認することが大切」とした。契約書の中には、退去時の部屋の修繕に関する項目がある。退去時の原状回復の基準は、国土交通省住宅局によるガイドラインに従って物件のオーナーや仲介業者が定めている。

 朝日住宅でも、入居者に渡す「特約事項」に修繕費用の精算に関する記載がある。引っ越し前は何かと忙しく、書類に目を通すのを後回しにしてしまいがちだが、退去時に慌てることがないよう、しっかりと確認しておきたい。

 契約書を読むときは「原状回復」「善管注意義務」といった言葉に注目すると良い。善管注意義務とは「善良な管理者(=入居者)の注意義務」の略で、入居中に物件に傷を付けるといった行為は善管注意義務違反に当たる。善管注意義務の項目を確認することで、違反の基準や対応を把握できる。

家具の搬入や荷ほどきをする前に、入居時の部屋の状態を確認しておくことが大切。

 入居時の部屋の状態や、あらかじめ備えられている部品を確認しておくことも大切という。入居前から付いていた傷や汚れの確認に加えて、須山さんは「部屋の状態や設備品を写真に撮って残しておくと良い」と話した。

 例えば、洗濯機と排水ホースをつなぐ部品「エルボ」や洗面所のタオル掛けなどは、もともと備え付けられているものなのか判別が付きにくく、退去時に処分してしまったり、回収業者が家電などと一緒に撤去してしまったりすることがあるという。
 入居時の状態を写真に残しておくことで、備品を誤って処分して費用を請求されるといったトラブルを防止できる。

 【駐車場】
 須山さんは「駐車場が持っている自動車よりも小さく、車を停められなかったというトラブルもある」という。駐車場のサイズが合わないと、自動車の保管場所を証明するための車庫証明を発行できない可能性がある。サイズが合わない場合、事前に相談すると近くの駐車場を用意してもらえることもあるという。物件を探す時はつい部屋のことで頭がいっぱいになってしまいそうだが、駐車場や駐輪場にも気を配りたい。

▷避難経路の確認も忘れずに
 室内の掃除やメンテナンスに加えて、須山さんは「災害時の避難場所や避難経路の確認、マンション内の避難ルート、非常用はしごの使用法を知っておくことも大切」と呼び掛ける。いざという時に慌てず行動できるよう、日頃から備えておきたい。

契約内容の確認や部屋のメンテナンスを怠らず、快適な新生活を送りたい。

 須山さんは「一つ一つは当たり前のことだと感じるかもしれないが、掃除やメンテナンスなど、少し意識するだけで管理のしやすさに違いが出る。賃貸物件は自分の所有物ではないからと管理をおろそかにするのではなく、こまめな手入れを」と話した。
 新生活が始まると何かと慌ただしく、部屋の管理にまで意識が向かないかもしれないが、毎日過ごす家は大切な場所。こまめな掃除、換気などを心掛けて快適な生活を送り、退去する際はスムーズに手続きしたい。