新型コロナウイルス感染症の治療薬など抗体医薬品の開発につながる「完全ヒト抗体産生マウス」の作製に、鳥取大医学部生命科学科の香月康宏准教授らの共同研究グループが、国内外で初めて成功した。これまで難しかった全てのヒト抗体遺伝子をマウスに組み込む技術を開発。安全性に優れた創薬や免疫反応解明への貢献が期待される。
(山根行雄)
マウスを使った抗体医薬品の開発は従来、マウス由来の抗体(免疫グロブリン)を取得し、一部をヒト抗体に置き換えて行われてきた。ヒト抗体遺伝子は余りにも大きく、全てを置き換えることができず、ヒトに投与されたときの安全性が課題だったため、完全なヒト抗体遺伝子の導入技術確立が求められていた。
鳥取大、鳥取大発ベンチャー企業トランスクロモソミックス社(米子市)などのグループは、独自の染色体工学技術を使い、全ての遺伝子が搭載できるようにしたマウス人工染色体ベクター(遺伝子の運び屋)を開発。ヒトと同等の膨大で多様性のある完全ヒト抗体を生み出すマウス作製に成功した。
完全ヒト抗体産生マウスは人工染色体の安定性に優れ、解析結果では肝臓や小腸、脾臓(ひぞう)など各組織でほぼ100%を維持。ヒトに類似した抗体の多様性を示し、異物(抗原)に対するヒト抗体の取得効率が高いことが示された。
研究グループは既にこのマウスを使った感染症などに効く新規抗体医薬品の開発プロジェクトに着手。新型コロナワクチンやバイオ医薬品の安全性評価への活用も視野に入れる。
香月准教授は「がん、感染症、自己免疫疾患など幅広い疾患に対し、迅速で画期的な治療法開発や提供につながる」と話した。
九州大や東京薬科大も加わった研究成果は、英科学誌ネイチャーコミュニケーションズの5日付オンライン版で公開された。