鳥取県東部を中心に伝わる重要無形民俗文化財「麒麟(きりん)獅子舞」の獅子頭の制作・修理を、同県八頭町池田の工芸士矢山裕二さん(44)が受け継いでいる。2月に他界した第一人者で師匠の中山勘治さん=享年98=の後を受け、「昔から受け継いできた形を、1頭でも多く次の世代につなげたい」と意気込む。 (岸本久瑠人)
八頭町出身の矢山さんは奈良県の大学時代、多くの仏像を見る中で制作者の精神に興味を持ち、職人の道を志した。卒業後、専門学校を経て、奈良市内の仏師の下、2年間住み込みで修業。26歳で帰郷し、獅子頭を修理したと聞いて見学に行ったのが、中山さんとの出会いだった。
後継者がいないという話を聞き、何度か見学するうちに「仏像を彫る技術は、獅子頭の制作や修理に生かせる」と考えるようになり、弟子入りした。
麒麟獅子舞は鳥取藩主・池田光仲が1652年に鳥取東照宮の祭礼行列に登場させたのが始まりとされ、中国の想像上の霊獣・麒麟を思わせる獅子頭を使うのが最大の特徴。矢山さんによると、1頭の制作には7~10カ月、修理には約3カ月かかるという。
基になる頭の耳や目などの位置を細かく測り、図面を描いて型紙を作り、木材を加工。のみと彫刻刀で彫り、漆や金箔(きんぱく)を塗る。7年間の修業で、一連の制作技術とともに、一つ一つ細かく精密に部位の寸法を測り、獅子の特徴を忠実に再現する、妥協しない姿勢を学んだ。
2010年に独立し、町内に工房を開設。これまでに約20頭の制作・修理を手掛けた。中山さんからは生前たびたび「後は頼んだ」と言われ、期待ととともに伝統の重さを背中で受け止めた。
獅子頭の内部には職人の名前が残る。「先生の手掛けた獅子頭を修理するのが楽しみ。しっかりやっていきたい」と力を込めた。