バス事業を揺るがす人手不足に、危機感を募らせる石倉功さん=島根県海士町海士、隠岐海士交通
バス事業を揺るがす人手不足に、危機感を募らせる石倉功さん=島根県海士町海士、隠岐海士交通
山下弥桜さん(右)はじめ〝お試し移住〟の参加者の暮らしを支援する清瀬りほさん=島根県海士町福井、キンニャモニャセンター
山下弥桜さん(右)はじめ〝お試し移住〟の参加者の暮らしを支援する清瀬りほさん=島根県海士町福井、キンニャモニャセンター
バス事業を揺るがす人手不足に、危機感を募らせる石倉功さん=島根県海士町海士、隠岐海士交通 山下弥桜さん(右)はじめ〝お試し移住〟の参加者の暮らしを支援する清瀬りほさん=島根県海士町福井、キンニャモニャセンター

 10日告示、15日投開票の島根県海士町長選が迫る。地元高校の「島留学」や、離島の魅力を前面に出したUIターンの受け入れが、人口の「社会増」につながり注目される中、足元では生活を支える事業者の人手不足が影を落とし、即効性のある政策を求めている。 (隠岐支局・鎌田剛)

 「大学に入って教育に興味を持ち、やりたいことがここにあった」。沖縄県の大学3年生山下弥桜(みお)さん(20)=島根県西ノ島町出身=は2月、隠岐島前高校の学習支援を担う、町内の公立塾・隠岐国学習センターのスタッフになった。

 大学を休学し、3カ月間の「お試し移住」で、延長もできる町の「島体験」制度を利用。家賃無料のシェアハウス、月8万円の生活支援金が使える。

 「海外留学を考えたが、新型コロナウイルスの影響で行けなかった」。元から目指した道ではなかったものの、母校の課題解決が「自分の力にもなる」と考え、後輩たちと向き合ってみようと決めた。

 島体験と、2020年10月に始まった移住体験プログラム「大人の島留学」の支援スタッフ、清瀬りほさん(23)=鹿児島県・徳之島出身=も、昨年度は「留学生」の一人だった。

 大学卒業後の進路を考えた時、町の教育と人材育成に興味を持った。離島、高齢化という、古里も抱える地域課題と向き合うことに価値を見いだした。

 1年間、移住政策に携わり「5年後、10年後を見据えた人づくりは自分の考えより先を行っている」と実感。その「先」に追い付こうと、この春、町職員になった。

 

「滞在」から「定住」

 「これまで学生が中心だったが、本年度は半分が社会人。コロナ禍で目が地方に向いている」。島体験と島留学の実務を担う「島前ふるさと魅力化財団」のプロジェクトリーダー、青山達哉さん(26)は変化を見て取る。

 町外から移り住む人たちの「定住人口」、出身者らを通じて町と関わりを持つ人たちの「関係人口」をいかに増やすかに主眼が置かれてきた人口減少対策。青山さんは「滞在人口」という視点を加え、「その一部でも定住してくれればいい」と力を込める。

 21年度は島体験と島留学で計55人を受け入れ、清瀬さんを含む8人が残った。22年度もほぼ同規模の50人が「滞在」。今後定員を増やすなどし、町人口2273人(4月末現在)の1割に当たる「200人」を25年度の目標としている。

 

職人系事業で深刻

 滞在、移住のサイクルがつくられつつある今、足元を揺るがす課題がある。人手不足と後継者難だ。船舶整備や板金業、クリーニング業、有資格者確保が難しい建築、土木など、町の幅広い事業者を悩ませる。

 「町全体で従業員不足が厳しい」と吐露する隠岐国商工会の石倉功会長(51)の言葉は、そのまま自身が経営する隠岐海士交通に当てはまる。

 町にある二つの交通事業者の一つで、バス、タクシーを運行するが、社員数5人は、約20年前の半数。バスの運転ができる大型2種免許保持者が集まらず、3人の欠員が埋まらない。

 同商工会で、隣の知夫村の会員事業者も含む21年度の廃業約10件のうち、佐藤賢一事務局長(49)が問題視するのが「経験や資格が必要な職人系の事業が引き継がれていない」という点。石倉会長も「優先度を上げるべきはコアな部分の人材」と指摘する。

 コロナ禍中にあっても、町の基幹産業・漁業を支える特殊冷凍技術(CAS)を生かした、養殖イワガキの個人向けオンライン販売は好調。逆境を乗り越えようとしている。

 さらに、観光などのサービス業で移住者による起業という明るい話題もある中で、足元に落ちる影。「このままでは家さえ直せなくなる」(佐藤事務局長)という声が、如実に、生活基盤を揺るがし離島住民の負担増を招く「島外依存」が高まることへの危機感を表し、町政の喫緊の課題となってのしかかる。