ロシアによるウクライナ侵攻で激震に見舞われた欧州の安全保障秩序が、さらに大きく変わる。中立路線を維持してきた北欧のフィンランドが米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請すると表明した。同様に中立路線だったスウェーデンも近く申請の方針を表明する見通しという。

 ウクライナ侵攻という暴挙を目の当たりにした決断は当然のものであろう。両国の意思を尊重して加盟手続きを進めるべきだ。両国は優れた軍事力を持ち、ストルテンベルグNATO事務総長も米政府も歓迎する意向を示している。

 ロシアは軍事的手段も含む対抗措置を取ると反発を強め、対北欧国境地帯への核兵器配備などが予想される。欧米とロシアの「橋渡し役」「緩衝地帯」の国がなくなり、NATOとロシアが軍事力を突き合わせて直接向き合う構図になる。

 中国も、米国の勢力圏の拡大を意味するNATO拡大には反対しており、世界は冷戦時代のような2陣営への分断が進んでいる。軍事的緊張がこれ以上に高まり、戦争が広がる最悪の事態を回避するため、NATOはロシアとの粘り強い対話などで緊張緩和へ知恵を出すことも必要だ。

 ロシアと約1300キロの国境を接するフィンランドは、第2次世界大戦中に旧ソ連に侵攻され領土の一部を失った。この経験から民主主義国家として西側と連携を深めながらも、冷戦下でソ連、冷戦後はロシアに侵攻の口実を与えないよう腐心してきた。欧州連合(EU)に加盟しながらもNATOに加盟せず、経済や環境分野でロシアとEUの関係強化を目指した。

 だがウクライナ侵攻はこの微妙なかじ取りを葬った。都市への無差別攻撃や占領地で残虐行為を行うロシアの非道ぶりを知り、次は自国が侵略対象になり得るとの結論に至ったようだ。

 フィンランドの世論調査ではウクライナ侵攻前にはNATO加盟への支持が2割程度だったが、5月上旬には76%に達した。スウェーデンも加盟支持が急増している。

 NATO条約は、加盟国が軍事攻撃を受けた場合、全加盟国への攻撃と見なし、武力行使を含む必要な行動を取ると規定している。フィンランド、スウェーデン両国には米国の核戦力などロシアに対する抑止力への期待がある。また両国は英国と既に相互安全保障に関する文書に調印している。

 冷戦初期に12カ国でスタートしたNATOは冷戦後に東方拡大を進め現在は30カ国の軍事同盟となった。冷戦終結後しばらくは安全保障、軍事、対テロなどでロシアとの協力がうたわれたが、旧東欧・ソ連諸国に拡大し続けるNATOとロシアは徐々に敵対的な関係に陥り、ウクライナ侵攻で決定的となった。

 プーチン・ロシア大統領はウクライナ侵攻の理由にNATOの拡大阻止を挙げたが裏目に出た。ウクライナの戦況は思うように進まず、米欧日から苛烈な経済制裁を科された。加えてNATOが北方に拡大しロシア包囲網が決定的に強まりそうな事態に、その失策のツケを思い知ったはずだ。

 NATOへの新規加盟には全加盟国の承認が必要で1年近くかかるという。この間に、ロシアによる両国への軍事攻撃の懸念もぬぐえない。新たな戦争を招かぬよう巧みな対応が求められる。