半導体など戦略物資の国内生産や海外調達を強化する仕組みを導入し、重要な産業や技術を政府が直接育成、保護する制度を盛り込んだ経済安全保障推進法が成立した。

 同法は(1)半導体などのサプライチェーン(供給網)強靱化(きょうじんか)の支援(2)情報通信など基幹インフラの安全性の事前審査(3)先端技術開発の官民協力(4)技術情報の流出を防ぐための特許の非公開化制度―の4項目を柱に、企業活動に対する公的関与を強化する。2023年春から段階的に施行する。

 安全保障と経済活動はもはや密接不可分になった。国民生活を守るには一定の規制強化や国家介入は必要だ。国家機密や個人情報の海外への流出を防ぎ、日本経済の屋台骨である自動車産業が力を入れる電気自動車(EV)に必要な半導体確保などに道筋を付けるのは政府の責務である。

 新法には、非公開の特許情報を漏らした場合に2年以下の懲役を科すなどの罰則が導入された。「特定重要物資」に指定された医薬品や半導体の調達先を隠したり、インフラ設備を製造した国を偽ったりした場合も罰則の対象になる。だが、国の介入が過大になれば経済活動が萎縮しかねない。企業の自由をできる限り尊重する抑制の効いた運用を求めたい。

 安全保障環境を整える観点から経済活動への規制を強化しようという議論は情報通信やデジタルなどのハイテク分野を巡る米中対立を背景に始まった。

 ロシアによるウクライナ侵攻で、経済安保の重要性が一段と増す国際情勢となっている。日米欧はロシアの戦力をそぐため、対ロ金融・経済制裁に踏み切ったが、原油や天然ガスなどエネルギーの対ロ依存度が高い欧州が、特に厳しい状況に追い込まれているからだ。

 ロシアを排除した世界規模での経済構造の組み直しが急務になっている。だが、これまで長期間にわたる貿易などにより築かれた取引関係の解体は一朝一夕にはできない。日本はエネルギーの対ロ依存度が比較的低いが、多くの企業はロシア市場からの撤退や戦略見直しを強いられている。

 貿易・金融網が世界に広がるグローバル化は平時には有効に機能し、各国の経済成長を後押しした。しかしいったん有事になれば、それは国家運営の基礎をなす重要物資が「敵国」ににぎられる状態に変質することを世界は今、痛感している。

 プーチン大統領の言動を見ていると、もはや世界は性善説を前提にしては成り立たないと認識せざるを得ない。政府はこうした状況にも耐え得る経済構造を構築しながら、同時に企業活動の活力を維持、向上させなければならない。その成否の鍵は制度運用の透明性だ。

 経済安保法は規制や支援の対象となる企業や設備を国会審議を経ない政令や省令で決めるため経済界には恣意(しい)的運用への懸念が強い。円滑な制度運用には不信感を取り除くことが急務で、丁寧な説明と可能な限りの情報公開が不可欠だ。その上で政策執行を事後的に検証できるようなルールも検討したい。

 今回は民間人が対象となる機密情報の資格制度「セキュリティー・クリアランス」は見送られたが政府与党内にはなお導入を求める声が強い。資格の前提となる身上調査の是非を含め、人権、企業活動の自由の侵害を回避する議論を求めたい。