耳が聞こえないハンディがありながら、剣道に熱中する高校生がいる。島根県立浜田ろう学校高等部2年の児玉湖春さん(17)は音が聞こえない分、相手の動きをよく観察した素早い動きで数多くの1本を取ってきた。4日にある高校総体の個人戦でベスト16を目指し、竹刀を振り込む。 (森みずき)
父や兄の影響を受けて、小学1年生から益田市内の道場で剣道を始めた。スピードを生かした面を得意とし、今春の中国高校剣道選手権の県予選を勝ち上がり、本戦への出場を決めるなど力を付けている。
ろう学校の高等部は児玉さん1人のため、放課後に徒歩とバスで片道30分かけて浜田高校に通い、周辺の中高生15人と合同稽古に励んでいる。
面を付ける間は衝撃に弱い補聴器を外すため、ほぼ聞こえない状態になる。稽古中のコミュニケーションは、2学年上の先輩が考えてくれた。頭をさわれば「面」、手首で「小手」、タイマーを指さして人さし指で円を描くのが「掛かり稽古」といった具合だ。
中学の頃は周囲の目が気になった。聞こえないのを知られないよう、町中で補聴器を外したり、手話を使わないようにしたりしたという。
ただ、剣道にのめり込むにつれ、力やスピードだけでない駆け引きの面白さを知った。「強くなる」ための過程でおのずと自分の内面やハンディに向き合うようになったといい「剣道に助けられた」とも口にする。
将来の夢は特別支援学校の教諭。文武両道を目指し、1年前から学校近くの寄宿舎での生活も始めた。
浜田高校で指導する俵芳徳さん(65)は「相手をよく見て隙を突く。熱心なところもいい」と伸びしろの大きさに期待する。
「音が聞こえないことで集中し、自分のペースで試合ができる」と話す児玉さん。ハンディを強みに変えて臨む高校スポーツの大舞台で、成長した姿を見せるつもりだ。