新たな視点で石見銀山遺跡の魅力を調査する金田郁也さん=大田市大森町
新たな視点で石見銀山遺跡の魅力を調査する金田郁也さん=大田市大森町

 世界遺産エリアに人々の暮らしが根付く島根県大田市の石見銀山遺跡を調査しようと、筑波大大学院の金田郁也さん(28)が中核地域の大森町に移り住んだ。海外でリゾート開発された世界遺産を見たのをきっかけに石見銀山に興味を持った。住民の文化財を保護する意識の高さを調査、研究し、新たな視点で価値を発掘しようと奮闘する。(曽田元気)

 金田さんは群馬県高崎市の出身。大学在学中にマレーシアの世界遺産・ジョージタウンに行き、ホテルの乱立や物価上昇の影響で地元を去る住民がいると知った。「その地に人が残ってこそ、建物や文化も残る」と世界遺産の負の側面を感じた。

 大学卒業後、大手旅行会社に4年間勤め、筑波大大学院へ入学した。遺産の保護に関わる専門家の育成を目指す世界遺産学の学位プログラムで学ぶ。

 大森町には1年前に移住し、2021年11月に大田市の地域おこし協力隊員になった。研究では大森町民によって1957年に発足し、文化財行政を動かした大森町文化財保存会をテーマに設定。保存会発足がその後の町づくりを決める転機だったとし、なぜ町民に文化財を守ろうとする意識が生まれたのかといった視点で調査する。

 世界遺産登録が注目されがちだが、住民にとっては国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された87年当時が大変だったとの声を聞いた。選定されるには住民が住宅や店舗を工事する際、伝統的な建築様式を守ることが求められる。生活に不便が生じながらも伝統や文化財を守るという葛藤を乗り越えたのがこの時期だったとされる。

 国の選定から35年になり、住宅や店舗、寺社の改修が進み江戸の雰囲気を伝える町並みは専門家から高く評価される。金田さんは「町並みはただ、建物が残っているのではなく、人の息遣いが伝わる。大森は長くいたいと思える場所」と話し、住民は世界遺産だから住んでいるわけではなく、大森が好きだから暮らしていると感じる。

 今後は保存会の発足当初を知る人への聞き取りを本格化させる。「町民が生き生きと、アイデンティティーを持って暮らすことにつなげたい」と研究の意義を話した。