洋楽の日本語タイトルには秀逸なものあり笑えるものありと、さまざま。その面白さを”言いたい邦題”シリーズとして随時つづりたい。第1弾は米国のロック・バンド、J・ガイルズ・バンドの「堕(お)ちた天使」。ちょうど40年前の1982年に全米ナンバーワンに輝いた曲だ。テレビCMなどによく使われ、曲名やバンド名を知らない人も「ナーナーナナナナナ…」の印象的なコーラスを聞けば「あ~あの曲か」となるかもしれない。

歌詞の意味が分からなくても十分に楽しい曲だが、分かるともっと味わい深い。原題はCenterfold(センターフォールド)。日本人にはあまりなじみのない単語で、雑誌の真ん中の「見開きページ」を意味する。中央(center)で折り畳む(fold)部分ということである。その語が示す通り、大人になってヌード雑誌をめくっていたら、見開きページに学校時代の憧れの女の子が登場し、びっくり仰天という話を歌っている。彼女は「クラスの天使だった」と思い出を歌う前半から、雑誌での”再会”にショックを受けて「僕の天使が見開きページに」と繰り返すさびとコーラスで盛り上がり、最後は「買いに行かなきゃ」という落ちのある陽気なロックンロールだ。
centerfoldを英英辞典で引いてみると「服を着ていない女性の写真が載る場合が多い」といった意味の説明が加えられている。ということは、英語を母語とする人たちの多くはcenterfoldというタイトルを見れば、ヌードの見開きページに関わる歌だという連想がおそらく働くはずである。一方、日本人にはこの連想がないから、邦題をそのまま片仮名で「センターフォールド」としても何も伝わらない。そこで考えたのが「堕ちた天使」だったということだろう。曲の明るさに対して、重い印象も醸す邦題は、ヌードへの日米の感覚の違いを反映している気がして興味深いが、直接的な表現を用いずに曲の世界をうまく伝える優れたタイトルだと思う。

1967年結成のJ・ガイルズ・バンドにとってこの曲は、最初で最後の全米ナンバーワンヒットとなった。歌うのはリードボーカルのピーター・ウルフ。作詞作曲はキーボード担当で時にボーカルも担うセス・ジャストマン。曲を収録したアルバム「フリーズ・フレイム」も同じ82年にアルバムチャートのトップに立った。頂点を極めた後、ピーター・ウルフが83年にソロに転向し、バンドは85年に解散した。バンド名にもなっているリーダーでギタリストのジョン・ガイルズは2017年、71歳で亡くなった。(洋)
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