アルバム「アルモライマ」のジャケット
アルバム「アルモライマ」のジャケット

 フラメンコギター奏者のパコ・デ・ルシアは「右手に伝統、左手に革新」が信条だった。伝統的な演奏の第一人者でありながら1970年代後半以降、ジャズミュージシャンと共演したり、バンド演奏したりと従来の枠を超えてフラメンコの音楽的可能性を追求し、ファンの裾野を広げた。

 当時、小学生くらいだった記者は、ラテン音楽好きの父に聴かされて知り、最も好きなミュージシャン。民族音楽やジャズ・フュージョンに興味を持つ入り口にもなった。

 代表曲の一つ「アルモライマ」(1976年発表の同名アルバム収録)ではギターのほか、アラブの弦楽器ウードを奏でる。フラメンコのパルマ(手拍子)も加わって異国情緒たっぷり。81年のライブ・アンダー・ザ・スカイ(東京・田園コロシアム)では、ジャズピアノ奏者チック・コリアと共演した。チックがパコをイメージして作曲したという「イエロー・ニンバス」は速弾きのギターにあおられ、激しさを増すピアノが聴き所だ。

 ジャズ・フュージョンギター奏者アル・ディ・メオラ、ジョン・マクラフリンとの共演も記憶に残る。81年発表のアルバム「フライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコ~スーパー・ギター・トリオ・ライヴ!」収録の「地中海の舞踏」は3人の掛け合い演奏が面白い。

 当時は、いずれも父がラジオ番組からとったカセットテープを聴いた。81年ライブ・アンダー・ザ・スカイでの演奏はCD化されておらず、父のテープからスマホに移していて今でも時々聴く。2014年にパコが亡くなった時は父と一緒に聴いて、しのんだ。

【上】島根県西部の伝統芸能・石見神楽 【下】大正琴に合わせて披露するどじょうすくい踊り(資料)

 伝統芸能や伝統音楽を取材するたび、新しい要素を取り入れながらフラメンコの幅を広げようとしたパコの信条が思い浮かぶ。例えば、石見神楽が発煙筒など現代風の見せる演出を取り入れたことなど個人的には賛成だ。安来節も過去に大正琴やサックスとの共演を試みたことがあるという。

 ジャズトランペットの巨匠マイルス・デイビスは電子楽器導入など新しい演奏スタイルを開拓し続け、歩みがジャズの歴史と言っていいほどだ。残念ながら、パコは、フラメンコ自体がマイナー音楽のため一般的な知名度は高いと言えないが、マイルスに匹敵する巨人として、もっと光が当たっていいと思う。 (志)

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