ジーンズの腰の辺りを大写しにしたLPジャケットをよく見てみる。中央部にあるのは、開閉可能な本物のジッパーだ。
ベルトのあたりには切れ込みがある。後ろめたさと俗悪な興味を入り交じらせながら、切れ込みを開きジッパーを下ろす。出てくるのはリアルな白のブリーフ。その右側、腰のあたりにブランド名のように小さく記されている文字にニヤリとする。
「アンディ・ウォーホル」
20世紀を代表するポップ・アートの巨匠が、このジャケットを制作したのだ。
アルバムのタイトル「スティッキー・フィンガーズ」は、ここで訳すのがはばかられる程の下品なスラングだ。しかし曲は皆超一級。結成から今年でちょうど60年を迎えたザ・ローリング・ストーンズが1971年に出した代表作だ。
オープニングの「ブラウン・シュガー」は、キース・リチャーズがオープンGチューニングの5弦テレキャスターで、イカしたカッティングを刻み、聞く者の魂を一発でわしづかみにする。
ほかにも珠玉のカントリーバラード「ワイルド・ホーシズ」、ブラスセクションが力強いR&B「ビッチ」、オルガンのソウルフルな響きが印象的な「アイ・ガット・ザ・ブルース」…。ロンドンのブルースフリークが結成したストーンズにとって、米国音楽愛の完成形といっていい。
この後、80年代にかけ、ストーンズの活動は巨大なロックビジネスと化していく。スタジアムやアリーナを会場にしてセットや映像、音響に金をかけた。花火などの派手な演出も試み、万単位の観客を楽しませた。ショップでは、例のベロマークが入った各種グッズが大量販売された。
大量生産と大量動員。そして大量消費。「大きいことはいいことだ」的な資本主義礼賛の出発点がこのアルバムであり、ウォーホルにジャケット制作を託したことは誠に象徴的だ。
ポップアートが弾けた20世紀後半、アートの中心はパリからニューヨークへと移った。そこで花開いたウォーホルの作品群は、米国的商業主義全盛の世を写す鏡のような存在だ。例えば出世作「キャンベルのスープ缶」。何の変哲のない32個の缶をスクリーン印刷という機械的手法で並べた。20世紀における音楽とポップアートの融合は「持続可能な社会」が叫ばれるようになった今日、振り返る意義は大きい。
2025年、倉吉市に開館予定の鳥取県立美術館では、キャンベルのスープ缶の立体作品などウォーホルが収蔵リストに加えられるようだ。購入額に驚く人もいるそうだが、「スティッキー・フィンガーズ」にジャケットごと魂を奪われてしまった者としては、ぜひ館に足を運び、じっくり対峙(たいじ)したくなる。そして右肩上がり経済の終焉(しゅうえん)と、21世紀の行く末について思いをはせてみたい。
(示)
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