記者会見で陳謝する川崎幼稚園の理事長(右)ら=7日午後、静岡県牧之原市
記者会見で陳謝する川崎幼稚園の理事長(右)ら=7日午後、静岡県牧之原市

 静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で3歳女児が通園バスに置き去りにされ、熱中症で死亡した。点検ルールの不備、怠慢、思い込みなど人為的ミスが重なり悲劇を生んだ。

 昨年7月にも福岡県中間市の保育所で5歳男児がバスに取り残され、死亡している。事態を重く見た政府は、送迎バスを持つ全国の幼稚園、保育所などを点検し、安全管理マニュアルの策定を柱とする緊急対策を10月中にもまとめる方針だ。

 だが緻密なマニュアルがあっても実行するのは人間だ。ヒューマンエラーはゼロにはならない。必要なのは、ミスが重なっても子どもの命を救える仕組みだ。取り残された園児を人感センサーで検知し警報を鳴らすなどの安全装置の設置を義務付けるべきではないか。

 女児は最高気温30度超の屋外駐車場で、施錠されたバス内に登園時から置き去りになった。約5時間後、帰宅園児を送る職員がドアを開けて女児を発見。暑さに苦悶(くもん)したのか上衣は着けておらず、水筒は空だった。

 子どもは一人一人に未来があり、将来を託す希望の星だ。そんな子どもたちを守り育むべき幼稚園などで、大人の過失が幼い命を奪うという不条理は許されない。これを止められないようでは、政府に少子化対策を語る資格はない。

 女児死亡には多くの原因がある。(1)園児を乗降時に確認するルールに不備があった(2)休んだ運転手を急きょ代行した園長(当時)と同乗の派遣職員は車内確認を怠った(3)園長は運転手がやるべき車内の清掃、消毒もしなかった(4)担任は女児の不在を把握したが「無断欠席」と思い保護者に連絡しなかった―などだ。これらはマニュアルを整え確実に励行すれば、防げたミスとも言える。

 そのため政府は、通園バスを持つ全国の幼稚園など約1万カ所が乗降時の確認をはじめ、国が求めてきた注意事項を守っているか一斉点検し、安全管理の統一基準となるマニュアルを10月中に策定するという。

 これまで政府は、送迎を保護者と園側の「私的契約」と捉え安全管理指導に及び腰だった。その姿勢を転換したことは前向きに受け止めたい。ただ1年前の福岡事故の際も政府は都道府県へ通知を出して送迎の安全管理徹底を求めたが、悲劇は繰り返されてしまった。

 今回の事故では運転していた園長、同乗の派遣社員いずれも70代の高齢者だった。保育所などは慢性的に人手不足に悩む。現場の仕事が逼迫(ひっぱく)し余裕が失われれば、マニュアルを逸脱する人為的ミスが起きる可能性は高まる。ならばテクノロジーの力も借りる時代ではないか。

 安全技術の進歩で「ぶつからない車」が実現しつつあるなら、車内に子どもを「置き去りにしない車」は難しくないはずだ。国は幼い命のため、その費用を補助すべきだ。